野火 <彼岸花> [野草]
ヒガンバナ 彼岸花 ヒガンバナ科 ヒガンバナ属
真っ赤な彼岸花は、時に燃え広がる野火のように、大きな群れを成して咲きます。
家の近くの公園の外れにも、昔からある程度の数の彼岸花が咲いています。
でも、野火が燃え広がるように一面の彼岸花は、なかなか見ることは出来ません。
もう何年も前に見た、奈良県・明日香の田圃に沿って燃え盛るような彼岸花の風景が、懐かしく思い出されます。
彼岸花の別名である「曼珠沙華」は、古代インドの言葉であるサンスクリット語の「マンジューシャカ」によるものです。
インドの仏典を、中国で漢訳する際、サンスクリット語の読みを、そのまま漢字に置き換える「音訳」の手法を採って「曼珠沙華」という美しい響きの言葉が作られた訳です。
「曼珠沙華」は仏典では、如来の説法の際に天空から舞い散る五天華(ごてんげ)という、五種類の花の一つとされています。
最も一般的な日本名は「彼岸花」ですが、その他にも「死人花」や「地獄花」など、様々な呼び方がされています。
「彼岸花」の名は、単に「お彼岸」の時期に咲く為に付けられた名のようですが、「死人花」や「地獄花」は、この花がよく墓地に植えられることによるものだといいます。
日本は、国民の多くが仏教徒(その多くは、葬式の時だけかも知れませんが…)である「仏教国」の筈ですが、仏典では「天上の花」が、民間信仰的には「不吉な花」とされていることに、僕は非常に興味を覚えます。
秋の野を 焼き尽くし行く野火のごと 朝の光に彼岸花燃ゆ
燃ゆる火の 野面を焼きて広がると 見紛う如く 彼岸花赤し
紅き花の 炎は雨に打たれても いよいよ赤く燃え盛りおり
ヒガンバナという植物は、花は咲いても種は出来ず、地下の鱗茎によって繁殖します。
その事から、本来日本の野生植物ではなく、古い時代に中国から移入されたものが、人間の手によって植えられ広がって行ったものと考えられています。
ヒガンバナの根には、相当な毒が含まれています。
しかし、この根を掘り出してすりつぶし、充分に水に晒すことにより、毒を除去して食用となる澱粉を採ることが出来るのだそうです。
種の出来ないヒガンバナが、日本各地に広まっているのは、食料の乏しかった時代に、そうして食料とする為だったという説もあるようです。
また、その毒性を利用してモグラを駆除するため、田畑の畦などに植えられることもあります。
曼珠沙華
北原白秋
GONSHAN. GONSHAN. 何處へゆく、
赤い、御墓の曼珠沙華、
曼珠沙華、
けふも手折りに来たわいな。
GONSHAN. GONSHAN. 何本か。
地には七本、血のやうに、
血のやうに、
ちゃうど、あの児の年の数。
GONSHAN. GONSHAN. 気をつけな。
ひとつ摘んでも、日は真昼、
日は真昼、
ひとつあとからまたひらく。
GONSHAN. GONSHAN. 何故なくろ。
何時まで取っても、曼珠沙華、
曼珠沙華、
恐や、赤しや、まだ七つ。
北原白秋 詩集『思ひ出』柳河風俗詩
岩波書店版 白秋全集2 <詩集2> 所収
僕は、彼岸花というと何故か北原白秋のこの詩を思い浮かべることがあります。
白秋は、童謡詩人としても知られていますが、耽美主義的な傾向の詩も多く書いています。そして、時にこうした不気味とさえ言えるイメージの詩も見受けられますが、それもまた、白秋の魅力の一つと言えます。
ちなみに、白秋は福岡県柳河の出身で、「GONSHAN(ごんしゃん)」という言葉に就いて、別の詩に「良家の娘。柳河語。」という注釈が付けられています。
また、詩に打ったルビは、すべて白秋全集によるものです。
尚、この詩は以前の記事に lapisさんも、その一連目を引用されています。
lapisさんは、彼岸花に関してのとても興味深い記事を書かれていらっしゃいますので、是非ご覧頂きたいと思います。
また、書家の sanesasiさんは、lapisさんの記事を本に、白秋のこの詩を書の作品にされて、ブログに掲載されています。
とても、味わいのある素晴らしい書です。こちらも、是非ご覧頂きたいと思います。(ブログでは、textデータとしては横書きにしか表示出来ませんが、sanesasiさんの書は縦書きで書かれていますので、詩としての本来の雰囲気もよく感じる事が出来ます。)
lapisさんの記事↓
http://blog.so-net.ne.jp/lapis/2005-10-06
sanesasiさんの記事↓
http://blog.so-net.ne.jp/sanesasi/2006-09-18
こんばんは^^
ヒガンバナが美しいですね~。
これほどいろんな詩や短歌がヒガンバナに作られているとは知らなかったですね~。柳川は一般的にこの『川』を書きますが『河』の方が本来の地名なんでしょうか・・・?『ごんシャン』と言う言葉も始めて知りました。『・・・シャン』と言うのはわたくしが育ったところでも使っていました。懐かしい響きです^^
by (2006-10-02 18:50)
ヒガンバナの赤 鮮やかで 美しいですね。
こんなに たくさんの 詩でも 読まれているんですね。
毒があるとは知っていました。 確かに 田畑の畦で 見かけたりしましたが
モグラ駆除のためだったのですね。
by Runa (2006-10-02 21:59)
モグラとの関係、なるほど。
関係ないけど柳川鍋食べたい。
by (2006-10-02 22:34)
彼岸花の赤はものすごく印象的な赤ですね。
あの写真を見てすぐ白秋の「曼珠沙華」を思い浮かべました。
誰の作曲だったか忘れましたが、大好きな歌の1つです。
私が聞いたのはGONSHANは子を失い気のふれたお嬢さんという解説だったような気がします。
by Gotton Factory (2006-10-02 22:35)
TBありがとうございました。
しかも記事中で、拙記事をご紹介いただき、感謝しております。
野火というタイトルがぴったりな見事な赤ですね!
まさに歌の通り、水滴が一層彼岸花の燃えるような赤を引き立てています。
今年は例年より遅かったで、やっと今ごろこちらでも彼岸花の盛りになりました。やはりこの時期にこの強烈な赤は欠かせないと思いました。
by (2006-10-02 22:44)
綺麗な彼岸花。特に2枚目、切り取り方も素晴らしく輝いた様子がそのまま天上の花ですね。田んぼのあぜに一斉に咲くのはモグラ除けに植えられたからなのですね。
by penpen (2006-10-03 07:10)
なるほど、なるほど。いつ読んでもおもしろい記事です。死人花や地獄花などという呼び方は、初めて聞きました。モグラ駆除のために、畑や田んぼのあざ道にも見られるのですね。
by sakamono (2006-10-03 07:26)
おはようございます。
普段見ているお花は、意外と海を越えてやって来たお花が多いんですよ。
曼珠沙華は、素敵なお花ですね。^^
それではー
by kei果 (2006-10-03 08:09)
彼岸花の一番良い状態の頃に撮られたのでしょうか、、赤い色がとっても
綺麗です。
"赤い花なら 曼珠沙華 オランダ屋敷に雨が降る”♪ この歌を聴いていて
どんな花なのかな?と思っていたものです。
by puripuri (2006-10-03 10:31)
こちらはほとんどの花が枯れてしまいました。
これからは、濃い緑の葉が出てきますね。
by Baldhead1010 (2006-10-03 11:10)
大変興味深く読みました。
野火と言われると、ほんとうにピッタリのようです。
「・・・・いよいよ赤く燃えおり」という詩が、写真とマッチして素敵です~~
by ミヤ (2006-10-03 11:41)
彼岸花、とても綺麗に咲いているのですね~♪
詩や短歌も始めて知りました。
鮮烈な赤が、人の心を捉えるんでしょうね~。
by YAYA (2006-10-03 14:03)
彼岸花、とても鮮やかですね。
そして白秋のこの詩には山田耕筰さんが曲を書かれていますよね。
スイス出身のヘフリガーというテノール歌手が
この曲をドイツ語で歌っているらしい(まだ聴いたことがない)のですが、
ドイツ語だとこの詩はどんな風になってるんだろう…?CDを探して聴いてみようと思います。
by (2006-10-04 12:51)
燃え盛る炎のような花ですね。
毒もあるということで、激しい気性のようなものを感じさせる花です。
by じゅん (2006-10-04 13:53)
ようやく今年の彼岸花の記事をアップすることができました。
今回は、タイトルを曼珠沙華にしてみました。土地柄のせいでしょうか。こちらの彼岸花は、albireoさんの撮られた花より赤が薄いような気がします。
TBさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
by (2006-10-05 01:20)
身に余るご紹介をいただき有難うございます 早くにお礼をと思いつつ 小布施や志賀高原をちょっと歩いておりまして遅くなりました
素晴らしいとしか言いようの無い 雨に濡れた彼岸花の赤 添えられた短歌にただただ感動いたしました
albireo さまのブログは いろいろと教えていただくこと多く しかも後まで 今回もなんともいえない 余韻に浸ることができました
by さねさし (2006-10-07 10:37)