花の受難 [歴史・伝説]
日本には、法律で定められた「国花」はありません。
しかし、一般的には「桜」か「菊」が、「国花」と考えられています。
桜は、元々日本にも自生していた植物ですが、菊は奈良時代に中国から入って来ました。
原産地の中国では、梅・竹・欄と並んで、四君子と呼ばれて、大切にされて来た植物です。
しかし、そんな菊も、日本では入って来た当時から、人気があった訳ではありません。
奈良時代に編纂された、「古事記」「日本書紀」「万葉集」のどれにも、菊に関する記述は一つもありません。
同じ中国原産の「桃」は、黄泉(よみ)の国から帰還した伊弉諾尊(いざなぎのみこと)を、追って来た悪霊から守った霊力のある植物として、古事記にも登場します。「桜」もまた、梅に比べると少ないものの「万葉集」の歌として多く取り上げられています。こうしたことを考えても、菊に対する日本人の思い入れは、当時は殆どなかったと言っていいかのも知れません。
平安時代から、鎌倉時代にかけては、栽培も行われ、文学作品にも取り上げられるようになります。
しかし、栽培に関しては、ほぼ宮中などで育てられるに留まっていました。
皇室の紋章として取り上げられた事に就いても、鎌倉時代になってからです。
それは、当時の後鳥羽上皇が、菊を好んだ事が理由であり、特別な歴史的意味づけ等があったわけではなさそうです。
菊の栽培が一般に広まったのは、江戸時代頃からで、この時期には様々な変わった品種が創出されています。
明治になって新政府が発足すると、菊は皇室の正式な紋章として法的に守られることとなります。
同時に桜もまた、その散り際の潔さから、軍国主義的な意味を持たされはじめました。
これには、江戸時代のころから広まり始めた、桜は日本固有の花で外国には存在しないという、誤った解釈も影響しているといいます。
(現実には、中国にもヨーロッパにも自生しています)
こうして、「菊」も「桜」も政治的・思想的な意味合いを付加して、富国強兵を急ぐ明治政府に利用され、やがては昭和に至る軍国主義の象徴とされてしまうのです。
そして、これは「菊」ではなく「桜」が蒙った不幸なのですが、第二次世界大戦が終わった後の、日本国内では様々な場所で、公園や並木のサクラが、かつての忌まわしい軍国主義の象徴だからとの理由で切り倒されてしまうという、事件が起こったということです。
どんな理由にせよ、罪もない植物がこのような形で切り倒されたという事実があるとすれば、それはあまりにも悲しい出来事だと思います。
現在のように、どの花も花としての美しさを愛でる事が出来るのは、本当は当たり前の事なのでしょうが、同時にとても幸せな事なのかも知れません。
参考資料:平凡社 世界大百科事典 DVD版
小学館 スーパーニッポニカ CD-ROM版 他
12月8日、ずっと昔、日本が不幸な戦争を始めてしまった日に・・・
こんばんは。
菊が日本古来からあるのではない・・・と言うのはどこかで読んだ記憶があります。ただ桜は日本にしかないというのは子供の頃から聞かされていたのか、イギリスで白い桜の花《木》を見たときはもうビックリでした。
by (2005-12-08 18:17)
私は、てっきり 菊が国の花だと思っていました(^^;
天皇家が菊のご紋だからなのかなぁ。。。
by あやこ (2005-12-08 19:53)
菊にそんな歴史があったとは、勉強になりました。
by (2005-12-08 20:10)
菊の写真が、本当に生き生きと、心に働きかけてきました。
そして、菊の歴史もまた、この菊を、手に取るように感じさせてくれました。
by (2005-12-08 22:28)
お陰さまで、菊の色々な知識が増えました。京都には、嵯峨菊といって、
少し違った形の花の菊がありますね。
菊は何となく仏事的な感じがあるのですが、何か理由があるのかな・・・?
by INOUE (2005-12-08 22:41)
12月8日はいろんな出来事があった日ですね。戦争の後に桜が切り倒されていたとは・・・花に罪があるわけないのに極端な事をするものですね。私も菊が国花だと思っていました。残念ながら70年近く続いた枚方の菊人形が後継者不足で今年を最後に閉幕してしまいました。いろんな菊がキレイだったのに。過去記事は週末にゆっくり見せていただきますね。
by barbie (2005-12-09 00:55)
菊の花、ずーと昔からありそうな花ですよね。
菊にしても桜にしても、いろいろな物語があるんですね。
by atom (2005-12-09 01:06)
菊の写真とても美しいですね!
特に2枚目が好きです。
仰るとおり、花たちには罪はなく、悪いのはみな人間だと思います。
by (2005-12-09 01:21)
海外でも例えばアスターを墓所に捧げる花として、イメージすると読みました。
キク類は長く持つ切花として、そのように用いられるのかもしれません。
たしかに、そのような・・死のイメージとともに思い出されることがあります。
花は生きているからきれいなんですけどね。
by 春分 (2005-12-09 08:29)
花はただありのまま咲いては散っていくはずなのに、
人間の都合で乱されてしまいます。
遺伝子組み換えの流れの中でも、野生を失わせないで欲しいと思いました。
by じゅん (2005-12-09 08:37)
菊や桜は昔からの日本本来の花と思っていました。
やはり帰化植物なんですね。今では世界中で見かけますね。
by お散歩爺 (2005-12-09 09:31)
音楽作品もそうですが、お花にも、純粋にそのお花の持つ魅力や生態系の中での意味以外に、
社会的な意味づけというか歴史があるんだなぁと、しみじみと思いました。
現在純粋に楽しむことができるのはとても幸せなことなんですね。
これからはそのことに感謝しながら楽しみたいです。
by (2005-12-09 12:40)
菊の興味深い知識をありがとうございました。
日本というと桜のイメージが強いですが平安時代は桜は見向きもされず、梅の方が好まれたんですよね。時代で色々変化しますね。
それにしても無心に咲く美しい花も人々の思惑に翻弄されたとは、悲しいことです。
by m-tamago (2005-12-09 12:55)
菊の花、さくら、ただ美しいと観れる私たちは幸せなんですね....
1000年以上も生きた.臥竜桜、薄墨桜、滝桜も神が宿っているのではと思わせる程美しかった〜
by mippimama (2005-12-09 13:37)
桜にそのような意味が持たされていたというのを初めて知りました。
綺麗だなと眺めるばかりでしたが、今でも当時の悲しい時代に思いを馳せながら桜を眺める方がいらっしゃるのでしょうね・・・・・
先日の筑波山の記事をTBさせていただきました。
albireoさんのお名前も記事中にありますので、不都合があればおっしゃってください。m(__)m
by はるまきママ (2005-12-09 14:16)
狂った人智をみて、植物は何を思うのでしょうね。
by Baldhead1010 (2005-12-09 14:57)
桜や菊にそのような時代があったなんてちっとも知りませんでした。桜の紅葉が優しい色で綺麗ですね。
by penpen (2005-12-09 20:59)
美しい菊のお写真とその歴史、興味深く拝見いたしました。
黄色がみずみずしく生命力を感じます。そんなところが不老不死への願いと繋がっていったのでは、と、このお写真を見て改めて感じました。
by SomethingPrecious (2005-12-09 21:31)
菊やサクラにそんな時代の流れがあったなんて・・・
菊の とても 美しいです。
by Runa (2005-12-09 21:34)
一番下の菊の色が好きです。
日本の、国の花と言えば、「桜」とすぐ出ますね。
菊は、、、、初めて、ですが、天皇のマークって、
菊ですよね!
by sera (2005-12-10 15:47)
そういえば、皇室の御紋ですね。
by shareki (2005-12-10 17:44)
こんばんは^^
菊って日本固有の植物ではなかったのですね。
(コスモスが明治初期に渡ってきたのは知ってましたが)
普段、普通に接しているお花にも色々な歴史や背景があるんだなって
思いました。
でも、そんな人間の思惑とか全然違うところで。
限られた生を精一杯生きている植物の潔さはやはり素敵です^^
by bellflower (2005-12-10 23:54)
古今集の巻第五に十首ほど菊の歌が歌われていまして 心あてに折らばや折らむ 初霜の置きまどはせる白菊の花 凡河内躬恒 の歌はよく書にされていますが 万葉集には無く菊の歌は少ないですね その理由がよくわかりました
by NO NAME (2005-12-11 11:10)