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燈火の妖精 [祭礼・行事]

毎年、八月初旬から十日間、奈良市内の奈良町から奈良公園の周辺で、「燈火会(とうかえ)」という行事が行われています。

「燈火会」は、NPO法人の主催で6、7年前から始まった行事で、古くからあるものではありません。
しかし、周辺にある、興福寺などのお寺も参加する、大規模な行事となっています。
今年(2005年)は、8月6日(土)~8月15日(月)まで、開催されるそうです。

ここに掲載した写真は、昨年の燈火会に行った時のものです。

   その日、奈良へは日帰りで来ていました。最後に、興福寺の東金堂に参拝して帰ろうと思い、お堂の内陣に入る前に正面の参拝場所へ行ったときの事です。
   賽銭箱の前に、三、四歳くらいの小さな女の子が立っていて、鰐口の綱を引こうと、一所懸命に小さな手を伸ばしていました。でも、その子は小さ過ぎて、とても届く様子ではありません。
  「鈴、鳴らしたいの?」 僕が訊ねると、その子は大きく頷きます。
  「じゃあ、おじさんが抱っこしてあげようか?」 すると、やっぱり女の子は大きく頷きました。
   僕がそっと抱き上げると、その小さな子は腕をいっぱいに伸ばして、一所懸命に太い綱を引きます。
  何度か繰り返す内に、漸く鰐口が小さな音を立てると、女の子は満足したような表情を見せました。
  「鈴、鳴ったね!」 僕は、声を掛けて女の子を下に降ろすと、
  「ありがとう」 女の子は、可愛い声でそう言うと、お堂の石段を駆け下りて行きました。
   女の子の去っていた人ごみに目を遣ると、その子は一度だけ立ち止まって、手を振ってくれていました。そうして、不空羂索観音(ふくうけんさくかんのん)を祀る南円堂の方へ向かって、再び一目散に人混みの中を走り出すと、忽ちのうちに僕の視界から、消え去って行ったのです。

   その時僕は、心の中にほっとするような暖かいものを残して走り去った、あの小さな子が、付近の堂塔に祀られた諸仏の内の誰かに遣わされた、燈火の精のように思えてなりませんでした。

                                    東金堂前 

興福寺では、五重塔をライトアップしています。
上の東金堂の写真の奥に見える、強い光がライトアップの照明です。
闇に浮かぶ、国宝の五重塔はなかなか幻想的で美しいものです。

「燈火会」の期間、興福寺では「国宝館」を通常より遅い時間まで開放していました。しかし、遅い時間になると、さすがに入館者も少なく、僕はあの美しい『阿修羅像』と、心行くまで対面して来ることが出来ました。

興福寺の『阿修羅像』を愛する方たちは、大勢いらっしゃると思いますが、
この so‐netブログのメンバーでは、僕の存じ上げる限りだけでも、
 
sera さん  IXY-nob さん  lapis さん  が、いらっしゃいます。
もしも、『阿修羅像』に会いに行かれるなら、この時期は狙い目かも知れません。

今年も、国宝館・東金堂ともに、夜8時位まで開いているそうですが、もしも、行かれる場合は、事前にご確認下さい。

また、「燈火会」自体も、雨天は中止の場合があります。
実際、僕は一昨年も行ったのですが、台風が接近して居り、雨天中止となってしまいました・・・。こちらも、事前に下記HP等でご確認を。

なら燈花会 公式HP
http://www.toukae.jp/index.html

興福寺 公式HP
http://www.kohfukuji.com/

原則的に、三脚が使用禁止のため、石段の上にカメラを置いたり、膝に乗せて撮ったりした為、綺麗に写ったものは少なかったのが残念でしたが・・・。

しかし、もっと残念だった事があります。
毎度のことですが、特に中高年カメラマンの中には、他人の迷惑を顧みず、どこにでも大型の三脚を立てて撮影する人たちの姿が、あちこちで見られました。

でも、上にも書いた、東金堂で出合った燈火の精のような小さな子が、最後に僕を優しい気持ちにさせてくれたので、楽しい記憶だけを持って帰ることが出来ました。


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じゅん

灯火の暖かくて柔らかい光は心が安らぎますね。
僕の近所でも、河に大きな灯篭を浮かべた祭りがありました。
思わず写メールで撮りましたが、ブレてしまって残念でした。
by じゅん (2005-08-05 19:37) 

shareki

「燈火会」、心が安らぐ感じがします。
女の子のお話も良いですね、ほっとできるひとコマだと思います。
三脚禁止とか、マナーはちゃんと守って欲しいですね。
京都とか行くと、撮影禁止、三脚・一脚禁止の場所も多いですよね。
写真が趣味の者としては、ぜひ守りたいマナーだと思います。
by shareki (2005-08-05 20:58) 

penpen

albireoさんはやっぱりお優しい方なのですね。きっと女の子もうれしかったでしょうね。燈火会は初めて聞きました。お盆の行事かなと思ったのですが、そうでもなさそうですね。いつも日帰りで来られるんですか?
by penpen (2005-08-05 21:23) 

美しい行事ですね!
女の子のお話も、素敵なエピソードでした。albireo さんの文章を拝見していると、なんだか本当に「燈火の精」のような気がしてきます。
お薦めの時期を、教えていただき、ありがとうございます。
『阿修羅像』好きの中で、僕のブログだけ傾向が違うような。(笑)
お二方とも、本当に素敵な写真のブログですね!
by (2005-08-05 21:41) 

albireoさんは 神出鬼没でいろんな所にお出かけになるのですね。「燈下会」始めて知りました。
by (2005-08-05 21:42) 

最初の灯火会の写真、幻想的です。
女の子のお話は微笑ましいですね。albireoさんの優しさと、女の子のかわいらしさがすごく伝わってきます。
鹿がとっても可愛い!albireoさんを見つめてるみたいですね。
by (2005-08-05 22:39) 

Runa

言いようのない 感動が 今 しています。
この燈火と albireoさんの 小説のような 文章が
マッチしてしまい 私の胸に 火を灯したようです。
女の子は きっと燈火の精かもしれませんね。
albireoさんを 導いてくれた。
by Runa (2005-08-05 23:05) 

ナナ

日本の夏を感じます。
いい記事ですね。
ホッとしました。
by ナナ (2005-08-06 00:47) 

HAL

妖精出てきそうですね!
by HAL (2005-08-06 01:18) 

atom

3枚目のローアングルの写真、幻想的でいいですね。
albireoさんの優が伝わってきました。
by atom (2005-08-06 02:42) 

Silvermac

20台の最後に、奈良で約一年を過ごしました。お寺巡りをしましたが、当時(昭和34年)はあまり俗化されてなく、古都奈良の面影が色濃くありました。懐かしい思い出です。
by Silvermac (2005-08-06 09:42) 

Baldhead1010

仏様が女の子を遣わして、試されましたね。
by Baldhead1010 (2005-08-06 10:35) 

女の子もすごくうれしかったのですね。
微笑ましい情景が浮かんできます。
by (2005-08-06 18:26) 

あやこ

ココロ温まるお話ですね^^
夜のお寺も雰囲気があって素敵ですね!
by あやこ (2005-08-06 21:46) 

INOUE

「灯火」というものは、雰囲気がいいですね。情緒満点です。
京都でも、最近東山地区で、「花灯路」というのが始まって、今度は
嵐山地区でも始まるようです。こちらは歴史的なものではなくて、
観光客の方の誘致が目的のようですが。でも結構いいムードです。
by INOUE (2005-08-06 21:57) 

sera

素敵な写真です♪<m(__)m>
燈火会、、、行きたいな~阿修羅像に会いたいな、、、
奈良に日帰りはちょっときついですね、、、もったいない、、、
何年か前に日帰りで行ったときがあります。法隆寺の久世観音を見に。
とても時間が足りなくて、悔しかったです。
奈良に行くなら泊らなきゃ~と思いました。

小さな女の子の話、とてもいいですね~Albireoさんの優しさが伝わります。

>阿修羅像と、心行くまで対面して来ることが出来ました
よかったですね!!
あの顔、不思議ですよね、、、作った人の気がそのまま生きています、
すごい作品ですね~
by sera (2005-08-06 22:42) 

Gotton Factory

燈火会、初めて知りました。いい雰囲気ですね。
そしてシカ、かわいい写真ですね。
by Gotton Factory (2005-08-06 22:43) 

mippimama

燈花会.すてきな行事ですね
1枚目の御写真も好きですが、3枚目にとても惹かれました...
可愛い燈火の精のお話にもほっとさせれてしまいました♡
by mippimama (2005-08-07 14:26) 

ccq

風情がありますね。一度見てみたいです。
by ccq (2005-08-07 17:46) 

barbie

派手さはありませんが、風流な行事ですね。桜の時期にも思いましたが、中高年のカメラ愛好家の方はどうして独り占めにしたがるのでしょうか。私など下手くそな写真しか撮れませんが、ちょっと場所を譲って一枚ぐらい撮らせてくれてもいいと思うのですが。あまりマナーが悪いと三脚全面禁止のところが増える事になるかも知れませんね。
by barbie (2005-08-08 00:25) 

さねさし

Runa さまたちがおっしゃっていられるとおりに感じました いいお話に いいお写真 ほんとに素晴らしいです 阿修羅像はもう10年位前にお会いして以来
興福寺で阿修羅像の写真を買って来て飾っています 昨日は広隆寺の弥勒菩薩像にこころ奪われてしまいました このお写真も前から飾りっぱなしです 迷う時かなしいときは 拝んでしまいます
by さねさし (2005-08-08 21:07) 

はるまきママ

三脚がなくても、綺麗です!
本当に燈火の精が住んでいそうな気がします。

一部のカメラ愛好家のマナーについては胸が痛みます。
自分はそうならないように、と肝に銘じます……
by はるまきママ (2005-08-09 10:37) 

マユ

昨年の燈花会に行かれたのですね。
同じ時期に調査にいっていたので、もしかしたら、どこかですれ違っていたかもしれません。
この行事は、当時の奈良市観光課にとても精力的なお方がいて、「奈良の魅力を引き出す、新しいかたちのお祭りを!」という思いで実現されたもので、お祭りが軌道に乗りだしてからは行政の手を離れてNPOに委託し、毎年たくさんのボランティアも参加する、とても理想的な運営をしている行事だと思います。

今年は残念ながら猿沢池を彩るあのゆらゆらした光に出会うことができません。
行かれる方は、春日大社の万燈籠とあわせてご覧になると、一層素敵ですね。
by マユ (2005-08-09 18:01) 

albireo

◇ じゅん さん ありがとうございます。
優しく灯りは、心も優しくしてくれます。
夜の撮影は、手持ちでは厳しいですね・・・。

◇ 渋樹 さん ありがとうございます。
夜の撮影ですから、手持ちでは厳しいですが、やはりルールは守りたいと思います。
せめて、他人への多少の気遣いは欲しいでかね。

◇ penpen さん ありがとうございます。
お盆の行事という訳ではないようです。
何故か、日帰りが多いですね・・・。
でも、2002年に、penpenさんのご近所の三千院へ行った時は、奈良へも行くために一泊しました。

◇ lapis さん ありがとうございます。
僕は、小さい子供が好きなので、つい天使や妖精に見えたりするのでしょうね。
僕自身『阿修羅像』が好きですから、『阿修羅像』好きの方には、親しみを感じてしまいます。

◇ mimimomo さん ありがとうございます。
あまり色々な所へで掛けるわけではありませんが、奈良へはもっと行きたいと思います。

◇ 理恵子 さん ありがとうございます。
僕は、小さい子供が好きなのですが、こんな風に「ありがとう」と、ちゃんと言える子を見ると、尚更愛おしくなります。
鹿の写真は、HPにも沢山あるので、良かったら見て下さいね!

◇ Runa さん ありがとうございます。
きっとそうですね。つい、苛立ったりしてしまう僕の気持ちを、優しく静めてくれる為にやって来てくれた、可愛い妖精なのだと思っています。

◇ ナナ さん ありがとうございます。
お仕事が忙しそうなので、ちょっとでもホッとして貰えれば、とても嬉しいです。

◇ HAL さん ありがとうございます。
多分、本当に出て来てくれたのだと思います。

◇ atom さん ありがとうございます。
この場所は、壇上にカメラを置いて撮れました。石段にも、沢山の燈火が灯されていて、とても綺麗でしたよ!

◇ SilverMac さん ありがとうございます。
奈良に住んでいて、奈良を良く知るという学者が、公演で「奈良は田舎なのだ」と、言っておられました。
いい意味で、田舎であって欲しいと思います。

◇ Baldhead1010 さん ありがとうございます。
きっと、そうなのだと思います。

◇ tanaka-ma3 さん ありがとうございます。
子供たちにとって、悪い大人が増え過ぎて、子供に迂闊に声を掛けられない世の中になってしまっている事が、とても悲しいです。
でも、あんなに小さいのに「ありがとう」が言える子に会えて、とても嬉しく思いました。

◇ あやこ さん ありがとうございます。
きっと、ちゃんと育てられている、とてもいい子だったのだと思います。
「ありがとう」と言ってくれた事が、すごく嬉しかったです。
人は大勢いますが、昼間と違う不思議な雰囲気でした。

◇ INOUE さん ありがとうございます。
この燈火会も、元々は観光が目的のようですが、地元以外の人の参加も募集していて、決して閉鎖的ではない、とてもいい行事だと感じました。

◇ sera さん ありがとうございます。
僕は奈良へ行くと、どうしても阿修羅に会いたいので、なかなか他の所へ行けません。
でも、日帰りでも出来るだけ、別のところへも行くようにはしています。
確かに、ちょっときつい事はきついですが・・・。

◇ Gotton Factory さん ありがとうございます。
大阪からも、来ている人は多かったようです。
是非一度、観に行かれると宜しいかと思います。
この時期は、子鹿が本当に可愛いです。
HPに、他の子鹿の写真もありますので、宜しければご覧下さい。

◇ mippimama さん ありがとうございます。
なかなか、いい雰囲気の行事でした。
いつか、もう一度燈火会に行ったら、また燈火の精のような子に会いたいと思います。

◇ ccq さん ありがとうございます。
関東地方からだとちょっと遠いですし、天候の心配もしないとなりませんが、観に行く価値のある行事だと思います。

◇ barbie さん ありがとうございます。
残念なことに、高齢者にマナーの悪い人が多すぎるように思います。
若者に注意をすべき年齢になっていながら、自分が注意されるような老人には、決してなりたくないものです・・・。そんな事を言っていると、また燈火の精に諭されてしまいますね!

◇ sanesasi さん ありがとうございます。
興福寺の阿修羅さまは、やはり多くの人に愛されていますね。
僕は、広隆寺の弥勒菩薩像さまにお会いした事がありませんが、いつか会いに行きたいと思っています。

◇ はるまきママ さん ありがとうございます。
石段等に置いた時はまだいいのですが、膝の上に置いた時は、息を止めてシャッターを切りました。
僕も、他人の批判だけでなく、「人の振り見て・・・」と思っています。


◇ マユ さん ありがとうございます。
あの人混みですから、もしお顔を存じ上げていても、なかなか気付けなかったかも知れませんね。
閉鎖的だと言われる古都の行事に、他地方からの参加者も受け入れているようなので、それもなかなか素晴らしい事だとは感じていましたが、元々、そういう謂れがあるとは知りませんでした。

昨年は、丁度時間を合わせて春日大社に参拝してから、万燈籠を見ながら興福寺方面へ戻って行きました。
あの燈籠の灯りも、いい雰囲気で美しいと思いながら、参道を歩いていました。
by albireo (2005-08-09 23:24) 

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