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タワーのある風景 [詩・歌]

           

                   うす陽のあたる石だたみ道

                   つきあたりにはあの店がある

                   ビルの狭間の硝子窓から

                   アイビー越しにタワーが見えた

                          太田裕美 「袋小路」

                          松本 隆 作詞  荒井由美 作曲

                            アルバム「心が風邪をひいた日」所収

 

                                        北国めざして旅立つ船の

                                        デッキでタワーが消えるのを見た

                          芳本美代子 「Aurora の少女」

                             松本 隆 作詞  筒見京平 作曲

作詞家の松本隆さんの歌詞には、時に「東京」の象徴としての「東京タワー」が描かれていることがあります。
その歌詞の中で、何故か松本さんは「東京タワー」ではなく、「タワー」とのみ書かれています。
それが僕には、「タワー」への深い思い入れのように感じられます。

著作の奥付のページなどに記された略歴によれば、松本さんは僕よりも二つほど年上のようです。
ですから、ほぼ同じ頃の東京のイメージを原体験として持っているせいなのか、その詩にはいつもとても心惹かれるものがあります。
恐らくは、その原体験の一つに、子供の頃に建設工事が始まった、「東京タワー」の存在が、大きなものとしてあるように思います。

                 

僕にとっての「タワー」もまた、僕の故郷としての東京への思いの象徴であり、自分自身のひとつの存在証明のような気がしています。

まだ幼かった頃の夏休み。
僕は、大好きだった母方の祖母の家で、長い期間を過ごすことが、ほぼ通例のようになっていました。 

やがて夏が終わる頃、幾分の名残惜しさを感じながら、田舎の長野県から東京へと帰って来ることも、またいつものことでした。

走って行く電車が東京の街に入ると、やがてタワーが見え始めます。
既に夜になって、灯りの点りはじめたタワーを目にすると、「帰って来た・・・」という、不思議な安堵感が、僕の心を満たして行きました。

田舎の農家に比べれば、当然のようにとても狭い家も、そここそが自分の暮らす場所なのだと幼い心にもちゃんと解っていたような気がします。
そして、この東京と言う街が、自分の故郷なのだということも確かに理解していたのだと思います。

今は、都内には住んでいませんが、タワーは僕の故郷である東京のひとつの確かな象徴です。
それは、もしかすると現在の東京ではなく、遠い日の過去の東京かも知れません。
多分、タワーが空に聳え建ち始めたころの、懐かしい東京のような気もします。

幼い頃、田舎から誰かが出て来た時には、何度もタワーに昇ったことがあります。
けれど、ある程度大きくなってからは、自分の意志でタワーに昇ることはありません。
ただ、遠くからタワーを見る時、この街が故郷なのだという思いが、幼いころに田舎から帰って来た時の、あの不思議な安堵感とともに、いつも僕の心に蘇って来ます。

      

この写真を撮ったのは、昨年の11月頃のことです。
その時、タワーに近づくにつれ、タワーが視界から消えてしまう頻度が多くなることに気が付きました。

それは、現在の東京が、一面の高層ビルに蔽われているということに外なりません。

でも、タワーの下まで行くと、やっぱり333メートルの高さは、今でもそれなりの迫力を持って迫って来ます。

その時もまた、敢えてタワーに昇ることはせずに帰って来ました。

 

今回の記事は、昨年の暮れ頃から、ずっと下書き記事のままになっていたものです。
それが、つい最近拝見した二つの記事によって蘇りました。

ひとつは、春分さんが太田裕美さんの「赤いハイヒール」について触れられた記事。
http://blog.so-net.ne.jp/shunbuntei/2007-06-24

そして、もう一つは 東京から京都へ戻られたBarbieさんが、京都タワーを見て「ふーっと深呼吸」されたと書かれていた記事でした。
http://blog.so-net.ne.jp/barbie/2007-06-25barbiebarbie

春分さんへ。と言うことで、僕は太田裕美ファンと言うよりも、松本隆ファンかも知れません・・・。

Barbieさんへ。生まれた街を象徴する建造物があるということは、とても素敵なことですね。


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コメント 18

春分

松本隆ファンということで了解させて頂きます。
六本木のビルの会議室から東京タワーを見下ろした時、不思議な思いでした。
ここにも見下ろす写真が載っていますね。
あの時代の空気を感じさせる歌詞とともに、暫くいろんなことを考えていました。
by 春分 (2007-07-07 14:58) 

こんにちは^^
人間にとって故郷って大きいんですね~。父が転勤族だったわたくしには
albireoさんの『タワー』に相当するものは見当たりません。もっとも今山から帰ってくるときって、大体葛西臨海公園《?》の観覧車が見えてきて『あーもうすぐ千葉だわ』っていつも思います。とても複雑な気分で・・・また日常が始まる。
by (2007-07-07 15:31) 

Silvermac

東京タワーは、東京のみならず、日本のシンボルでもあります。
by Silvermac (2007-07-07 15:52) 

いろいろな方が東京タワーに思い入れがあるのですね。
ちなみにCLAMPの「X」というマンガでは、
東京タワーは結界の一つとされています。
by (2007-07-08 02:05) 

じゅんぺい

昨年暮れに会社が移転して、毎朝東京タワーを見れる♪と思ったら
周辺のビルが邪魔で頭しか見えませんでした(;_;)
会議室から見る夜景はすごいという噂ですが
暗くなる前に帰ってしまうので(笑)(笑)
by じゅんぺい (2007-07-08 07:29) 

あやこ

青空に映える東京タワー とてもキレイです!!
行ける距離にいながら、まだ行ったことがないのです(>_<)
東京タワーの展望から景色をみてみたいですw
by あやこ (2007-07-08 20:21) 

sera

町の写真もいいですね~!
堂々たっている東京タワー、優雅な文明です(^_^)v
by sera (2007-07-08 20:57) 

konkon

私は宇高連絡線に乗ると、ああっ帰ってきたといつも思ってました。
その連絡線も、1988年瀬戸大橋ができて廃止になり、今は・・・
でも、あのときの感覚はいまだに残ってます。
by konkon (2007-07-08 22:38) 

barbie

記事を紹介くださいましてありがとうございます。
京都人に取って、東から帰ってくる時は京都タワー、西から帰ってくる時は東寺さんの五重の塔なんです。私の場合はリビングからずっと白いロウソクのような京都タワーを見て来たので思い入れがあるのかも知れません。albireoさんと同じく、大人になってからは上った事がないのですが。東京タワーに近づくに連れて見えなくなる...往く度に東京には高層の建物が増えて行きますね。日頃高い建物に慣れてないので、見上げるだけでクラクラしました(笑)京都では高さの規制があるのと、京都市内は北へ行くほどに高くなっているので、(今の住まいは京都駅から海抜100メートルほど高い)ので、市内の北の方に住んでる限りはタワーが見られそうですが。東京のalbireoさんは東京タワー、京都人は京都タワーか東寺さんかな?他の皆さんが故郷に帰って来たってホッとできる風景はどんなんか気になりますね。
by barbie (2007-07-09 08:22) 

gillman

ぼくにとっては
お化け煙突が
思い出の象徴です
by gillman (2007-07-09 22:14) 

puripuri

こんばんは、、
albireo さんには、幼い頃から思いをよせる「タワー」が現在も存在している。
感慨深く読ませていただきました。
私はどうかな?って。生まれ育った所はすっかり様変わりしてしまいました。
飛行機から降り、雪を被った山々を見ると「帰ってきた」、、高い建物がない町を
歩いているとホッとします。
by puripuri (2007-07-09 23:25) 

sakamono

2枚目の写真が「東京」という感じがします。自分も、やはり東京タワーが、東京のイメージでしょうか。故郷は東京の山の方なので、山に植林された杉林や、渓谷が、生まれ故郷のイメージです(建造物ではないですね^^;)。
by sakamono (2007-07-10 00:04) 

はるまきママ

青空に突き抜けるようにそびええる東京タワー、見ていると気持ちが晴れ晴れとします。
私は地方出身なので、”東京タワー=首都・東京”であり、333mという高さ以上の大きな何か威圧感のようなものを感じてしまいます。

真葵は、紅白に塗られた鉄塔を見ると、大小問わず『東京タワーだ!』と大騒ぎします。(笑)
by はるまきママ (2007-07-10 11:47) 

さねさし

里山も好き でも東京も大好き 特に東博に行きますと とっても豊かな時間がすごせます 私はまだ一度も タワーに登っていないことに気がつきました 今度登ってみます
by さねさし (2007-07-10 17:12) 

m-tamago

albireoさん、こんばんは。
私も慌しくしていてすっかりご無沙汰してしまいました。
東京タワー、会社帰りに車窓越しに見てほっとしています。
夏は夏の、冬は冬のライトアップで。
人工物なのに、なんだか癒される、やはり自分の中のシンボルになっているのだと思います。
久しぶりにのぼってみたくなりました。
albireoさんもお忙しいようですが、お体お大切にお過ごしくださいね。
by m-tamago (2007-07-10 20:42) 

周り中から見た東京タワー、、、素適ですね、、、。
東京土産の絵葉書みたいです(^_-)-☆
by (2007-07-11 00:01) 

アルファルハ

albireoさん、コメントありがとうございます。
タワーを見上げた瞬間ていいですね。
by アルファルハ (2007-07-15 13:11) 

すっごくわかります。。
私も中学のときまで東京にいたので、地方から電車で帰ってくると「帰ってきた。。。」って安堵感がいつもありました。
関西に引っ越してからもしばらくは、東京に行くとおんなじような感じがしてたけど、さすがに今はないデス。(笑)
でも、東京に行くたびにそのときの気持ちはよみがえるんです~!!
by (2007-07-23 17:54) 

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