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青鷺のいた水辺 [歴史・伝説]

 

  アオサギ  青鷺  コウノトリ目  サギ科

いつもの、カルガモのいる公園の池です。

もっとも今は、カルガモは、時々見掛けるだけで、ここには殆どいません。
池に、カルガモの姿が見えなくなると、大抵の人は、遠い国へ渡って行ったのだと思うようです。
でも、このブログにも何度も書いたとおり、カルガモは原則的には渡り鳥ではありません。
どうもこの池のカルガモたちは、繁殖期になると、抱卵や子育てのしやすい場所へ移動するようです。
図鑑の説明によると、繁殖期には水田に多くいるということですが、確かに近くの水田で、一組の番を見掛けることがあります。

と言うことで、今は水鳥が殆どいない池ですが、時折別の水鳥がやって来ます。

そんな鳥のひとつが、アオサギです。
アオサギは、日本の鷺の仲間では、特に大型の鳥です。

僕は、この青鷺を見ると、ある幻想風景を思い浮かべることがあります。
幻想というより、妄想と言った方が適切かも知れませんが・・・。

 

           楼蘭の美少女

       遠い遠い 遥かな昔のこと

       死の砂漠 タクラマカンの彼方

       幻の湖 ロプノールの辺に

       砂漠の王国 楼蘭は栄えていた


       柔らかな風が渡って行く

       ロプノールの岸辺

       長い髪の美しい少女が

       波打ち際に佇んでいる

       遙かに 戦乱の打ち続く

       タクラマカンの彼方を見つめる

       哀しみを湛えた眼差しには

       何が あるいは誰の姿が

       映っているのだろうか


       涼やかな風が吹き抜けて行くと

       青鷺の羽飾りがそっと揺れて

       少女の髪の毛が微かに揺れる

       伏し目がちな長い睫毛の少女

       憂いに満ちた澄んだ瞳の少女


       遠い遠い昔 あまりにも遥かな昔

       世界の果てのような砂漠の彼方

       青く輝く 美しい幻の湖の辺

       青鷺の羽飾りを身に着けた

       優しく美しい楼蘭の少女の幻影

 

それは、今から四千年ほども昔のことです。
シルクロードの彼方、スェーデンの探検家スウェン・ヘディンによって、嘗ては動く湖と考えられていた幻の湖ロプノールの辺りに、楼蘭(ローラン)王国というオアシス国家が栄えていました。

もう、随分昔のことですが、その楼蘭王国の遺跡から、若い女性のミイラが出土したという記事が新聞に載ったことがあります。
当時「楼蘭の美少女」と呼ばれたそのミイラの髪には、青鷺の羽が飾られていたと言います。

青鷺の姿を見るとき、いつもという訳ではなく、たまにですが、幻想の楼蘭の少女の姿と、まだ見たこともない死の砂漠タクラマカン、そして既に廃墟と化した楼蘭王国の様子とが重なって、僕の頭の中を過ぎって行くことがあります。

楼蘭という国は、砂漠の中のオアシスに建設された国家であったため、常に周辺の国家による侵略の脅威に晒されていたといいます。

詩の中に書いた「遙かに 戦乱の打ち続く タクラマカンの彼方」という一節は、そんな当時の現実からのイメージです。
しかし、本当のところ「楼蘭の美少女」が生きていた頃の情勢がどうであったかは、よくは分かりません。

けれど、時代は下りますが、「唐詩選」の中にも、こんな詩が収載されています。

 

          青海長雲暗雪山   せいかいのちょううん せつざんくらし

          孤城遥望玉門関   こじょう はるかにのぞむ ぎょくもんかん

          黄沙百戦穿金甲   こうさひゃくせん きんこうをうがつも

          不破樓蘭終不還   ろうらんをやぶらずんば ついにかえらじ

              王 昌齡 「從軍行」   おう しょうれい 「じゅうぐんこう」

青海湖の辺りから見渡すと
雲に覆われた天山(雪山)が暗く見える
この辺境の地にある城からは
唐の都に至る玉門関は遙かに遠い
果てしなく続く砂漠での戦いに
硬い鎧にさえも 穴が明いてしまった
けれど 楼蘭との戦いに勝たなければ
遠く懐かしい故郷には 帰る術もない…

「楼蘭を破らずんば終に還らじ」とは、勇壮な戦士の気概のようにも取れますが、本当のところ、戦に駆り出された一兵士の気持ちは、もっと切ないものであったと、僕はそう思います。
この現代語訳は、僕のそんな思いを込めた意訳に過ぎないことを、どうかご了承下さい。

 

 

ところで、今回の記事を書くために、シルクロードに関する些か古い本を出して来て調べたところ、嘗ての楼蘭王国であった場所の近隣地方の習俗として、結婚の際に新郎から新婦へ、青鷺の羽飾りを贈る慣わしがあったという、民俗学的な調査記録があることが判りました。
つまり、「楼蘭の美少女」と呼ばれたミイラは、既婚の女性だった可能性もあるということです。

でもここでは、最初に僕の記憶に植え付けられたイメージ通りに、「楼蘭の美少女」ということにしておきます。

 

それは・・・池の辺にいた一羽の青鷺の姿から、僕の心に浮かんだ幻想でした・・・。

 

今回の記事を、いつも通りの鳥の記事だと思って見て下さった皆さん
期待を裏切ってしまったことを、お詫びします<m(_ _)m>

 

参考書籍

唐詩選〈下〉

唐詩選〈上・中・下〉

  • 作者: 前野 直彬
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2000/10
  • メディア: 文庫

世界大百科事典 第2版 プロフェッショナル版―CD-ROM+DVD-ROM

世界大百科事典 第2版 プロフェッショナル版―CD-ROM+DVD-ROM

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 1998/10
  • メディア: 単行本
楼蘭・トルファンと河西回廊―楼蘭王国の謎を探り、葡萄のオアシスを歩く

楼蘭・トルファンと河西回廊―楼蘭王国の謎を探り、葡萄のオアシスを歩く

  • 作者: NHK取材班
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/02
  • メディア: 大型本

 


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コメント 19

素適なお話、ナイスです。
アオサギは広く繁殖しているのですね。
by (2007-06-17 01:09) 

おはようございます^^
albireoさんって本当によくいろんなことをご存知ですね~。
ロマンチストだし、、、^^
by (2007-06-17 05:09) 

春分

丁寧に掘り下げた記事ですね。こう言うのを書かなければと思ってますが・・・。
楼蘭の姫様がアオサギの羽を抱いて眠っておられたとは知りませんでした。
子供の頃読んだ「死の砂漠タクラマカン横断」の話のおかげでヘディンのことは
詳しく記憶しています。水が尽き仲間を殆ど亡くした旅の話でしたが。
そんなわけで、楼蘭とロプノール、タリムダリアへの勝手なイメージもあるのですが、今は「取り巻くは茫漠たる不毛の野」の状態でしょう。西域開発ですっかり変ったりしたら、それはそれでもっと、想像の糧を失う気がしますが。
by 春分 (2007-06-17 05:50) 

dino-tail

おはようございます。
実は私、大型のくちばしの長い鳥類は苦手なんですが;
青鷺の羽…素敵なお話ですね。
理由も無く、莫高窟に強い憧れを感じているので、タクラマカンや楼蘭にも
思い入れがあり、心は楼蘭に飛んでいきました。
albireoさんの日本語訳、堪能しました。兵士の気持ちは本当にそうじゃないかと思います。
by dino-tail (2007-06-17 07:41) 

Silvermac

アオサギから「楼蘭の美少女」を想起する、ロマンティックですね。
by Silvermac (2007-06-17 08:05) 

kei果

おはようございます。
青鷺は、仄かな青色ですね。
星を頼りに砂漠へ渡ったのかな。
それではー
by kei果 (2007-06-17 08:46) 

はじめまして
アオサギ異国の鳥みたいで素敵です。私の散歩道にある林間の小池にも
カワセミやカルガモそしてアオサギも来て撮影が楽しみですが、今年は
6月から突然飛来しなくなりガッカリ。
詩人のようなコメントいいですね~ 私も大学の聴講生で東洋史を選択し、
楼蘭の歴史には格別の興味があります。
by (2007-06-17 09:08) 

とんとん

美女に見えてきました。
by とんとん (2007-06-17 10:51) 

すごくキレイです!!
そしてalbireoさんが思う風景も素敵です☆
いろいろ繋がっていくのがすばらしいです(^^)
by (2007-06-17 16:17) 

sakamono

いつもの公園の池から、はるか四千年前のシルクロードへ、思いを馳せていたのですね。青鷺の羽飾り...ステキな詩です。
by sakamono (2007-06-17 22:20) 

はてみ

こんなふうに池の深いところにいるアオサギを見るのは初めてです。
なんだか不思議な感じ。
by はてみ (2007-06-17 23:05) 

「楼蘭の美少女」と青鷺の羽のお話、とても興味深く読ませていただきました。
当時の情勢が分からないほど、かえって想像の翼が羽ばたく余地があり、楽しいですね。
民俗学も面白いですが、歴史ロマンも大好きです。
by (2007-06-17 23:42) 

konkon

あの「楼蘭の美少女」の羽飾りは青鷺だったんですか~
これから青鷺を見ると、私もきっと「楼蘭の美少女」を思い浮かべることでしょう。
albireo さんに教えていただくお話は、本当に興味深いです。
by konkon (2007-06-18 15:35) 

sera

アオサギや他のサギ類が好きです。
アオサギは大きくて、目立ちますね。
口を開けるアオサギはかわいい!
by sera (2007-06-18 21:36) 

penpen

水辺にたたずむアオサギが綺麗ですね。アオサギが楼蘭の美少女の化身かなと思いながら勝手に読んでいたのですが、違いましたね。玉門関までは遠い遠い先だったんですね。
by penpen (2007-06-19 21:44) 

barbie

これからアオサギを見ると私もこの話を思い出しそうです。
by barbie (2007-06-27 08:53) 

とても美しくてロマンティックなお話ですね。
これからアオサギを見かけたら
遠く楼蘭の美少女に思いを馳せていらっしゃるalbireoさんを思い出しそうです。
by (2007-07-02 23:55) 

楼蘭王国の遺跡から、若い女性のミイラが出土したという記事は記憶していますが、そのミイラの髪に、青鷺の羽が飾られていたという記事には気がつきませんでした。しかし、その青鷺の羽に関して、現在、この近隣地方の習俗として、結婚の際に新郎から新婦へ、青鷺の羽飾りを贈る慣わしがあったという話は、よく調べられましたね。そうすると、この若い女性のミイラは、少女ではなくで既婚の女性だった可能性もあるということですか。なるほど、説得力がありますね。
by (2007-07-08 18:55) 

王子

私は今、蒼鷺の歌を歌っていて、色々調べていたらここへ流れ着きました。
このページで色々と蒼鷺を知ることが出来ました。有り難う御座います。
私の心もPCから楼蘭の地へ蒼鷺と共に飛びました。
本当に有り難う御座いました。良い歌が歌えそうです。
by 王子 (2007-09-03 21:41) 

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