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雨に濡れて [花]

 

    象潟や雨に西施が ねぶの花

                        松尾芭蕉 奥の細道

上に掲げた句は、芭蕉が『奥の細道』の旅で、秋田県の象潟(きさかた)で詠んだ句です。

『西施(せいし)』というのは、中国の春秋時代末(紀元前500年代頃~紀元前470代頃)の美女の名前です。
戦乱の時代に、政治的に利用され波乱の生涯を送った人ですが、その物語は様々な伝説に彩られ、実像は解らない部分も多いようです。
大体の物語は、「平凡社 世界大百科事典」には次のように書かれています。
「伝説をまとめれば,西施は,姓は施,名は夷光,浙江省諸曁(しよき)の苧夢(ちよぼう)村の生れ。美人であったため,敗国の辱をすすごうとする越王句践(こうせん)が呉王夫差(ふさ)のもとに彼女を送りこみ,政治を怠らせようとした。呉王の寵を得ると,西施はさまざまな難題を要求して呉国を疲弊させた。呉が越に滅ぼされたあと,もともと情を通じていた越の賢臣范蠡(はんれい)とともに五湖に舟を浮かべて行方知れずになったという。」
                   平凡社 世界大百科事典 DVD版

 

また、芭蕉が何故秋田県の象潟で、中国の人名を入れた句を読んだのかについては、江戸時代に書かれた『奥の細道』の注釈書『奥細道菅菰抄』の記述を要約すると、ほぼ次のような理由だということです。
中国 唐時代の詩人「蘇軾(そしょく)」が、中国の西湖地方の風景の中に、美しい西施の姿を置いた詩を書いています。その詩に描かれた風景を、日本では古来から「象潟」の美しい風景に、なぞらえて来たのだそうです。
そこで象潟を訪れた芭蕉も、その蘇軾の詩にちなんで、象潟の地に咲いていた合歓の花に『西施』の姿を重ねて詠んだのだということです。

かなり分かり難い話ですが、日本では平安時代頃にはよく、中国の詩や歴史書などに登場する場所や出来事を、日本の風景や、身近な文物などに見立てるということが行われています。
例えば、清少納言の『枕草子』などにも、そうした例が書かれています。

 

 

ところで、前の記事に あやこさんから、
>これは全部 シベなのですか?? 花びら???
と言う、コメントを頂きましたので、それにお答えする写真を撮って来ました。

写真の細い糸のようなものは、雄蕊の花糸(かし)です。
その沢山の雄蕊を包んでいる、小さな目立たない部分が、五弁の花びらだということです。
更に、その下にはガクが見えています。
ネムノキの花は、この小さな花が20個程も、寄り集まって出来ているのです。

でも、雌蘂がどこにあるのかは、色々な本を調べたのですが、よく分りませんでした・・・。

それから、
>この豆は煮ても焼いても食べられないだろうか。
という Baldhead1010さんからのご質問ですが、樹皮や種子は漢方薬で、打撲傷などの痛み止めや、胃腸薬にに用いるそうです。食べ物ではなく、薬のようです。
但し、詳しい使用法は分りませんから、勝手に煎じて飲まないで下さいね!

 

上から見ると、こんな風でした。
この花糸の様子には、僕も tanaka-ma3 さんと同様に、光ファイバーの装飾品を思い浮かべました。

 


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Runa

これだけ 大きくしてあると とても 良く分かりました。
またalbireoさんの 説明で ネムノキの事を
より知る事ができました~
可愛い雄蕊の花糸だな~
by Runa (2005-09-14 23:39) 

masa63

はじめまして。
気品あるべっぴんさんですね。
by masa63 (2005-09-14 23:42) 

atom

ネムノキのつくりがとてもよく分かりました。
雨に濡れると繊細な花のイメージがなくなってしまうんですね。
by atom (2005-09-14 23:58) 

HAL

本物の光ファイバーより綺麗かも。(^_^)
by HAL (2005-09-15 02:10) 

まい

この記事を読んで気づいたのですが、こういう歴史的背景みたいのがけっこう好きだったりします。楽しく読ませていただきました。
「光ファイバーの装飾品」て昔見かけたピンクとか青とか黄色とかに次々と色が変わっていくヤツのことかな~?
by まい (2005-09-15 03:33) 

ziziblog

沢山の雄蕊を包んでいる、小さな目立たない部分が、五弁の花、その下にはガクが見えています。
このご説明で不思議なネムノキの花の作りが分かりました。
by ziziblog (2005-09-15 04:42) 

象潟は何年か前、鳥海山に登るとき下りました。それは寂れたと言う感じの街でした。芭蕉はどの辺りで詠んだのでしょうね・・・。
合歓のお花と西施、昔の方々の感覚に近づくのはわたくしには難しそう・・・。
by (2005-09-15 05:24) 

Silvermac

5,6月頃に私もネムノキを撮りましたが、よく観察しませんでした。albireoさんのお陰で色々学ぶことが出来ます。有り難うございます。
by Silvermac (2005-09-15 09:16) 

猫ふみふみ

ひらひら部分が花だとずっと思っていました。
「豆」は薬になるんですねえ。
albireoさんには、いろいろ教わることが多いです。
by 猫ふみふみ (2005-09-15 10:13) 

akamaru

エイトマンですね!
by akamaru (2005-09-15 14:21) 

shareki

ひとつの花から、奥の深い話が読めてありがたいです。
古代中国の話もいろいろ面白いものが多いですね。
by shareki (2005-09-15 14:35) 

Baldhead1010

いやあ、いろいろと調べていただき、お手間取らせてすみませんでした。
by Baldhead1010 (2005-09-15 15:47) 

やっぱりそうでしたか、そうですよね。
by (2005-09-15 17:25) 

penpen

こんなに近くでネムのお花を見たのは初めてです。蕾の状態もよくわかります。芭蕉の句だけ見ても何のことかわかりませんが解説していただいてお花を見ると、西施さんなのかなと思ってしまいます。
by penpen (2005-09-15 20:46) 

koza

自然の光ファイバーっすね。
by koza (2005-09-15 21:03) 

じゅん

凄く大胆ですが、ちゃんと花の構造をもっているんですね。
by じゅん (2005-09-15 21:12) 

西施のお話、興味深く読ませていただきました。楊貴妃もそうですが、美しすぎると、悲劇を招くようですね。
清少納言のところを読んで、宮沢賢治のイギリス海岸を連想しました。もしかするとこの発想法は、賢治の場合にも共通しており、中国が西洋になったのかもしれないと思いました。
どれも素敵な写真なのですが、一番最後のものが、まるで海中の風景を撮影したかのようで、一番好きです。
by (2005-09-16 00:12) 

puripuri

とても興味深く読ませて頂きました。合歓の花も高い所に咲いているのを
見るだけなので、いろんな表情を見せてくださり有難うございます。
by puripuri (2005-09-16 00:49) 

maya

雨いぬれるとキレイ。。。
by maya (2005-09-16 15:51) 

aloeDog

いつも、歴史とか、詳しくて、ほほ~ってなります。
このお花、触ってみたいです。
by aloeDog (2005-09-16 19:50) 

rin

ほんとに、いつも勉強になります。
私も光ファイバーの装飾品を思い浮かべました。
by rin (2005-09-17 09:58) 

albireo

◇ Runa さん ありがとうございます。
僕も、ブログに載せる写真を撮ることで、色々なことを調べて、新しいことを知るのが楽しくなって来ました。

◇ tanamasa63 さん はじめまして、ありがとうございます。
合歓の花は、なかなか品がありますね。

◇ atom さん ありがとうございます。
花糸がくっ付いてしまうので、ちょっと切なげな感じがしました。

◇ HAL さん ありがとうございます。
やはり、人工のものより、自然の造型は美しいですね。

◇ まい さん ありがとうございます。
どうしても、歴史的なことを書いてしまうのですが、そういって頂けるととても嬉しいです。
そうです、最近あまり見ませんが、光を通して先端が輝く、玩具のような飾りです。

◇ zizi さん ありがとうございます。
実は、僕もやっと解ったところなのです。

◇ mimimomo さん ありがとうございます。
象潟というと、平安時代から歌枕として有名な場所です。
僕は、行ったことがありませんが、そんなに寂れた町でしたか・・・。

◇ SilverMac さん ありがとうございます。
高い木に咲きますから、なかなか細かいところまでは分かり難いですね・・・。

◇ 猫ふみふみ さん ありがとうございます。
僕も、そう思っていました。
まさか、あんなに目立たない花だとは・・・。

◇ あかまる さん ありがとうございます。
エイトマン・・・?
僕の知っているのは、東八郎の変身したエイトマンだけですが、他に何か・・・。

◇ 渋樹 さん ありがとうございます。
色々な逸話を知ると、花を見る楽しさも増すような気がします。

◇ Baldhead1010 さん ありがとうございます。
いいえ、調べるのは面白いですから。なかなか、楽しかったです。

◇ tanaka-ma3 さん ありがとうございます。
そうですよね。
でも、最近見掛けないですね~

◇ sanesasi さん nice! ありがとうございます。

◇ penpen さん ありがとうございます。
雨に濡れた様子は、儚げで切ない感じがします。
西施という美人のイメージかも知れませんね。

◇ こざき さん ありがとうございます。
まさに、自然の光ファイバーです!

◇ じゅん さん ありがとうございます。
やはり、花は花なのですね。

◇ lapis さん ありがとうございます。
中国の史書に出て来る美人は、悲劇のヒロインか、悪政を行った女帝か、そのどちらかみたいですね。
イギリス海岸を連想されたあたりは、さすがにlapisさんらしいですね。
見立てという発想は、鈴木春信の浮世絵などにも見られますが、とても面白いものですね。

◇ puripuri さん ありがとうございます
合歓の木は、高い所にばかり咲きますね。
僕も、こんなに近くで見たのは初めてです。

◇ maya さん ありがとうございます。
ちょっと切なげな美しさがありますよね。

◇ aloeDog さん ありがとうございます。
歴史、好きなのでつい書いてしまいます・・・。
触ると、柔らかい感じですよ。

◇ rin さん ありがとうございます。
光ファイバーの装飾品、何故か最近見掛けないですね・・・。
by albireo (2005-09-19 12:06) 

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