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ツルレイシ

 『ツルレイシ』という、植物をご存知でしょうか?

 『ツルレイシ』というのは、こんな「実」が成るのですが、あまり馴染みはないかも知れません。でも、次の写真ならお分かりになると思います。

                 ニガウリ 別名:ツルレイシ、ゴーヤー ウリ科 ニガウリ属

 

『苦瓜』です。最近は『ゴーヤー』と呼んだ方が、通りがいいかも知れれませんね。

実は、この『苦瓜』は、江戸時代には既に、沖縄や九州だけでなく、本州にも、中国から入って来ていたそうです。
当時は、『ツルレイシ』と呼ばれていました。漢字では『錦茘枝』と書いていたようです。(普通、「錦」は「つる」とは読みませんが・・・)
『レイシ』は、今は『ライチー』とも呼ばれている、楊貴妃も好んだという中国の果物から取った呼び名です。『レイシ』は、ムクロジ科の木で、『苦瓜』は草ですから、種類はまったく異なります。また、果実そのものの形も違いますが、表面のでこぼこした感じが似ているとして、つけられた名前だと思います。
その上に、苦瓜は、つる性植物なので『ツルレイシ』と呼ばれました。

しかし、江戸時代には、沖縄や九州を除けば、この『ツルレイシ』は食用ではなく、観賞用の植物でした。

江戸時代の学者『貝原益軒』の書いた『花譜』という書物に、その事が書かれています。         

 

                         

『錦茘枝(つるれいし)三月に種をうふ 苗生じて後うつしうふ 或盆に
 うへ 長じてかつらとなる時 ませをつくり 籠の如く
 にして花をははしむ 秋にいたり瓜のごとくなる 実
 熟して其色金のごとく 其皮さけて なかご紅なり 佳
 観とすべし 苦瓜(くくわ)とも云 』

意訳 「三月に種を植え、苗が出て来たら移植をする。植えるときは、盆に植えたり、大きくなってつるが延びて来たら、垣を作って籠のようにして這わせる。秋になると、瓜のような実がなる。実は金色で、その皮が裂けると中は紅で、鑑賞するのにとても良いものである。苦瓜(くか)とも言う。」

つまり、江戸時代には、一番上の写真のような熟した状態の実を、眺めて楽しむというものだったということです。

この本の原本は、元禄十一年に木版本として、京都の「東洞院通」と「高辻通」にあった版元から刊行されています。
元禄11年というと、西暦1698年です。つまり、今から300年以上前から、『苦瓜』自体は知られていたことになる訳です。
しかし、日本中で多くの人が食べるようになったのは、比較的最近のことです。

食べる時は、普通未熟果を収穫して食べますが、
平凡社 世界大百科事典(DVD版)には、「ツルレイシ」の項目に、
「完熟果は種子を包む果肉が甘く,食用になる。」
とあり、樹になったまま完熟させたものは、食べられると言うことのようです。(収穫後に黄色くなったものは、すぐに腐敗し始めるようですから、決して食べないで下さい!一番上の写真では、写真を撮ったときには、かなり痛んでしまっていました)

 

尚、上に掲示した『花譜』という本の図は、元禄十一年当時に出版されたものではありません。
この本は、全部で九十数ページにわたるものですが、すべてを手書きで写し取った写本です。
写本をした人物は、幕末に近い弘化元年(1844年)に、この『花譜』を読みたいと思い、版元を訪ねたりして探したようです。しかし、出版後既に百数十年が経っており、どうしても手に入らず、それでも探し回った結果、琵琶湖の辺りに、所持している人を見つけ、書写させてもらったという意味の事が、この写本の最後の方に書き付けられていました。

昔の人の、勉強熱心さ。そして、書物をを大切にしていること。更には、和紙に墨で刷られた書物の保存性の良さ。それら、すべてに、驚嘆させられました。

 


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Runa

ツルレイシ 最初の写真を見ても 分かりませんでした。
だけど 2枚目で あ~ ゴーヤーだ~と 笑
私も 最近です 食べるようになったのは!
だけど 苦いんです~
ちょっと 苦手です。 笑
by Runa (2005-08-10 22:05) 

albireoさんもよく研究されますね。この変体仮名が混じったような字は読みにくいです。
by (2005-08-10 22:19) 

こすもす

ゴーヤパワーってすごいらしいですね。
by こすもす (2005-08-10 23:22) 

成る程、「ツルレイシ」と言うのですか!歴史は、面白いですね。
仰るとおり、昔の人の本を丸ごと書き写すような努力には頭が下がる思いがします。また、albireoさんの研究の熱心さにも、頭が下がります。
上の変体仮名とても読めません。(苦笑)
by (2005-08-10 23:23) 

Silvermac

albireoさんの解説は勉強になります。
by Silvermac (2005-08-10 23:53) 

えー あのこわいくらいに赤い種のまわりは食べられたんですね!
プランターに種をまいてみたら、小さな実がなったので、自然にはじけるまで観察したんです。
by (2005-08-11 00:01) 

さねさし

久しぶりに古文書 随分熱が入り クイズのように読ませていただきました
錦茘枝の「茘」という字は 草冠に刕ではなくて 昔の字 劦という字でやはり書かれているんですね それから 最後の苦瓜のふりがなが くくわの「わ」は「王」のわでしょうか 「か」は「Kwa]と昔は発音していましたから それでいいと思うのですが わたしは くくはの 「は」は 「者」という字の変体かなにみえるのですが 
by さねさし (2005-08-11 00:03) 

rin

初めまして。

夏の間、冷蔵庫に常備するほどゴーヤ大好きです。
そんなゴーヤが、観賞用だったとは。。。。

古の書物、美しいですね。
探究心、情熱、万物に接する心が詰まっているからなのでしょうか。

ちなみに、ゴーヤーのタネとワタをとって刻んで塩もみして水出しした後
容器に入れ冷蔵しておくとけっこう持ちます。。。
ご存知だったら失礼いたしました。。。
by rin (2005-08-11 00:35) 

atom

ゴーヤは最近ではスーパーにも並んでますが、ずいぶんと昔からあるんですね。先日TVの料理番組で、アバシゴーヤーというのが美味しいと紹介されてました。
by atom (2005-08-11 01:46) 

あやこ

ゴーヤって大人になるまで知らなかった野菜の1つです。
そんなに昔から本州にもあったのですねっ!
昔の人は、どのように調理して食べていたんでしょうね^^
by あやこ (2005-08-11 08:28) 

Baldhead1010

レイシと聞けばキノコを思い出しますが全然関係ないですね。
ニガウリはやっぱり苦いです。
by Baldhead1010 (2005-08-11 09:48) 

ゴーヤチャンプルー、大好きです。
「永訣の朝」でしたね,青いじゅんさいがでてくるのは。
by (2005-08-11 12:03) 

ツルレイシ、黄色いとトウモロコシに見えますね!沖縄で食べてきましたよ☆とても苦いですが、また大人になってから食べてみようと思います。
昔の人の話を聞くといつも思うのですが、写本ってとても大変ですよね。すごいと思います。
by (2005-08-11 12:21) 

こーさん

うちの畑でも、ニガウリを育てています。先日収穫したそれは、割ってびっくり!
種の周りの果肉が赤く熟していて、食べてみるととっても甘かったです。鳥や動物に食べてもらって、種を運ばせるためだったのかな。
by こーさん (2005-08-11 12:43) 

IXY-nob

何でもコピーの時代から見ると「写本」というのは信じられない労力ですね。でも「写す」ことで学んでもいたのでしょう>
by IXY-nob (2005-08-11 13:44) 

mippimama

albireo さんの学習ぶりにいつも敬服してしまう
苦瓜は昨年始めて食べ、それからというもの食欲の落ちた時には良く登場します。
そんな昔からあったなんて驚きです!!
by mippimama (2005-08-11 14:11) 

beer

結構好きです。
by beer (2005-08-11 17:42) 

じゅん

それと、昔の人の文化水準の高さにも驚かされますね。
草花を愛でたり、鈴虫の音色を楽しんだり。
今の我々より自然を楽しんでいるかもしれません
by じゅん (2005-08-11 18:16) 

夏になると普通に八百屋さんに並ぶようになりましたね。
お散歩道にも、実をならせてるお宅があります。
色を楽しむ植物だったのですね。
by (2005-08-11 19:25) 

ゴーヤーって、すごく存在感がありますよね。観賞用だったというのもわかる気がします。先日、友人から届いたハガキに「ゴーヤー」の切手が貼ってありました~!
by (2005-08-11 20:40) 

マユ

熟した実を割った中の紅、を見てみたい気がします。
「かわり朝顔」といい、ちょっと妖怪じみたとらえどころのない形のものを鑑賞する感性は、江戸時代ならではかもしれませんね。

さて、事後報告で恐縮ですが、私のところにブックマーク貼らせて頂いちゃいましたので、ご報告差し上げます。
ほとほと迷惑だったら即刻解除しますので、仰ってください(笑)
by マユ (2005-08-11 21:20) 

penpen

今日も食べました。私はalbireoさんの勉強熱心さに驚嘆させられました。
by penpen (2005-08-11 21:27) 

ccq

一度作ったんですけど,ちっちゃいのしかなりませんでした。(悲)
by ccq (2005-08-11 22:23) 

barbie

書道の師範を持っているのに解説がなかったら読めませんでした(^_^;ダメですね。昔は観賞用だったとは。最初に食べた人は勇気がいったと思うのですが。
by barbie (2005-08-12 00:37) 

albireo

◇ Runa さん ありがとうございます。
実は、僕も苦手です。
でも、いつか家で育てて、その甘くなったのを食べてみたいと思っています。

◇ mimimomo さん ありがとうございます。
仰る通り、この字は相当読み難いです。
所謂古文書の文字とは違うので、僕も苦手です・・・。

◇ こすもす さん ありがとうございます。
栄養価などは、高いようですね。
でも、苦いものは苦手なので、あまり食べません・・・。

成る程、「ツルレイシ」と言うのですか!歴史は、面白いですね。
仰るとおり、昔の人の本を丸ごと書き写すような努力には頭が下がる思いがします。また、albireoさんの研究の熱心さにも、頭が下がります。
上の変体仮名とても読めません。さん ありがとうございます。苦笑)
◇ lapis さん ありがとうございます。


albireoさんの解説は勉強になります。
◇ SilverMac さん ありがとうございます。2005-08-10 23:53)


◇ すずめ さん ありがとうございます。 
観察されたというのが、すずめさんらしくて素敵です!
僕は、自然に熟したものを見た事がないので、貝原益軒の『なかご紅なり』が、すずめさんのお陰でやっと分りました。そんなに真っ赤なのですね。後は、その赤いところを実際に食べてみたいです。

◇ sanesasi さん ありがとうございます。 
この字は『者』ではなく、『王』の崩しのようですが、字が、小さいので分り難いですね。
近いうちに、HPに載せることを考えていますので、暫くお待ち下さい。
載せたら、ご報告いたします。

◇ rin さん はじめまして、ありがとうございます。
時々、近所の方から庭で採れたものを頂くのですが、なかなか一度には食べられません。
教えて頂いた方法を参考に、保存して置きたいと思います。

◇ atom さん ありがとうございます。
苦瓜も、種類があるのですね。
そう言えば先日、白っぽいのをスーパーで見かけました。

◇ あやこ さん ありがとうございます。
江戸時代の人は、食べずに眺めていたようです。
僕には、ちょっと苦いので、熟したものを食べてみたいです。

◇ Baldhead1010 さん ありがとうございます。
「霊芝」ですね。
僕は、果物の「茘枝」が好きなので、キノコは思い出しませんでした・・・。
苦瓜は、ちょっと苦手です。

◇ tanaka-ma3 さん ありがとうございます。
最近は、スーパーなどでも随分売れているようですね。
実は、僕はちょっと苦手です。

「永訣の朝」。そうです、妹のトシさんが亡くなった時の詩で、辛いですが美しい詩です。

◇ 理恵子 さん ありがとうございます。
やっぱり、苦いのは大人の味ですか?(^^♪
僕は、樹で熟して、甘くなったのを食べたいです。
写本は、僕には多分無理ですね・・・。字は下手だし・・・。

◇ こーさん さん ありがとうございます。
甘いのを食べた方がいたのですね!
尚更、僕も食べてみたくなりました。

◇ IXY-nob さん ありがとうございます。
中には、勝海舟のように二部写本して、一部は売って、金儲けをしていたような人もいますが、そのことからも、相当な集中力と忍耐力のいる作業だったのだと感じます。お金さえあれば、買った方が楽ですからね・・・。

◇ mippimama さん ありがとうございます。
古文書は、二十年も前に習い始めましたが、なかなか読めるようにはなりません。
やっぱり、継続していないと駄目ですね・・・。

◇ beer さん ありがとうございます。
すみません、僕はちょっと苦手な方です。
でも、近所の方から頂くときがあるので、その時は食べます。

◇ じゅん さん ありがとうございます。
江戸時代までの方が、文化的にはレベルが高かったかも知れませんね。
特に、江戸の町に住んでいた人たちはそうだと思います。

◇ min さん ありがとうございます。
家の近所でも、あちこちで作っている方がいて、時々お裾分けを頂きます。
やっぱり苦いので、昔は食べることを考えなかったのかも知れませんね。

◇ Kaori さん ありがとうございます。
切手になっていたのですね!
何時の間にか、それだけメジャーな野菜になっていたのですね。

◇ マユ さん ありがとうございます。
僕は、見るだけでなく、甘いというので、食べてみたいです。
『変り朝顔』は、佐倉の「歴博」で、夏になると展示をしていますが、確かにちょっと奇妙なものも出ています。「妖怪じみた」という見方は、とても面白いですね。

ブックマークは迷惑どころか、とても嬉しく思います。
マユさんに気に入って頂ける記事かどうかは分かりませんが、宜しければご覧頂きたいと思います。
こちらも、RSS登録させて頂きます。

◇ penpen さん ありがとうございます。
僕は、暫く食べていません。
でも、一度甘くなったのを食べてみたいです。

◇ ccq さん ありがとうございます。
僕は、ちっちゃくてもいいので、作って、完熟したのを食べてみたいです!

◇ barbie さん ありがとうございます。
この字は、ちょっと難しいですね・・・。
barbieさんは、書道もされるのですか!
僕は、古文書を読むことを、二十年前に習いましたが、書く方は全然下手です。
古文書を読むことと、字を書くことは別物のようで、何人かの大学教授にも教わったのですが、皆さんあまり字の上手い方はいませんでした・・・。
by albireo (2005-08-12 23:28) 

masa63

勉強になりました!!
ありがとうございます。m(__)m
by masa63 (2005-09-19 01:33) 

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