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虫豸帖と虫塚 [博物館]

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                   虫豸帖(ちゅうちじょう) 増山雪斎(ましやませっさい)筆  
                                        東京国立博物館所蔵 

 見た瞬間には、写真と見紛うような、この精緻な絵は、江戸時代に描かれた博物画です。

 筆者は、増山雪斎(ましやませっさい)(1745~1819)という人物ですが、職業画家ではありません。
 伊勢長島藩第六代藩主。つまり江戸時代の大名の筆に成る作品です。

 雪斎は、四十八才で長男に家督を譲り、隠居をしています。
 隠居後は、巣鴨の下屋敷に住んでいましたが、この「虫豸帖」は、上の蝶の絵に書かれている日付「丁卯六月六日写生」により、文化四年(1807年)、雪斎が六十二歳の頃に描かれたことが分かります。

 「虫豸帖」の「虫」は、微小な生物の内の、足のあるものを指し、足の無いものを「豸」と言うのだと、江戸時代の百科事典「和漢三才図会」に書いてありますが、この画帖の題名は、それに依るもののようです。
 ここに描かれた虫たちの殆どは、巣鴨の藩邸の庭で捕まえたものだそうですが、写生後の虫の死骸を、「わが友なり」と言って、大切に仕舞って置いたと言うことです。

 

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 上野の「寛永寺・根本中堂」の境内に、「虫塚」と名付けられた、石碑が置かれています。

 雪斎の没後、その遺志より虫たちの供養のために建立されたものです。
 「虫塚」(正しくは、「蟲」に土編のない「塚」)の文字の下に、細かい字で漢文が彫られていますが、近付いて見ても、よく分かりませんでした・・・
 また、石碑の中央より少し左依りに、白っぽい点が見えますが、これは小さな蛾でした。
 (名前は、今のところ不明ですが、取り敢えず、記事の最後に写真を載せます。)

 「虫」の供養塔と言うことですから、子供の頃の夏休みの自由研究で標本にした虫たちのために、僕も暫し手を合わせて来ました。

      寛永寺公式ホームページ

 

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 「虫塚」の由来や、雪斎の人となりに就いてのことなどが書かれていますので、興味のある方はご覧下さい。クリックをすると、充分読める大きさに拡大されます。

 尚、「増山雪斎」の苗字の読み方について、トーハクの展示では「ましやま」となっていますが、上の案内板では「ますやま」としてあります。
 これに関しては、「彩色江戸博物学集成」には、江戸時代の武家の名鑑である「寛政重修諸家譜」に「ましやま」としてあると書かれています。「寛政重修諸家譜」の記載を確認しようと思ったのですが、地震の後片付けの際に、棚の上の方に積み重ねてしまったため、降ろしきれず諦めました・・・

 以下、現在展示されている「虫豸帖」の一部の、画像を載せて置くことにします。

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 会場では、観覧者が見易いように、展示ケースの中に、手前に向かって傾けて置かれているため、写真を撮ると、上のように歪んだ状態に写ります。
 そのため、一部の画像は歪みを修正してあります。

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 「東京国立博物館ニュース第721号」に依れば、精緻に描かれた昆虫は、殆どが「種類の識別可能な正確さを示している」と言うことです。
 同時にまた、当時の江戸の町に、どんな昆虫がいたのかと言うことを、知る手掛かりにもなると思います。それは、時代考証にとっても、貴重な資料と言えると思います。

 描いた絵を貼り込んで、画帖に仕立ててありますから、展示ケースの中で、すべてのページを開いて観せて貰うことが出来る訳ではありませんが、それでも虫好きには、眺めていると時を忘れる程の楽しさを感じました。

 尚、「虫豸帖(ちゅうちじょう)」は、東京国立博物館で、2013年11月10日まで、本館2階8室で展示されています。

 同時に、丸山応挙の「写生帖」が、二種類展示されていて、その一つにも沢山の虫が描かれています。  

 それも、撮影可でしたから、取り敢えずは撮って来ましたので、次回には掲載したいと思います。

 

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 「虫塚」に止まっていた蛾。ご先祖の供養をしていたのでしょうか・・・ 

 図鑑で調べては見ましたが、今のところ正体不明です。
 ご存知の方は、どうかご教示のほど、宜しくお願い致します<m(_ _)m>

 追記:昆虫にお詳しい、ぜふさんのご教示により、「ウスミドリナミシャク」と分かりました。
     シャクガか、ヤガかと、取り敢えず見当を付けては見たのですが・・・
     種類の多い蛾の中から、こんなに素早く同定されるとは、流石にぜふさんです。
     本当に、有難う御座いました。
            

 

参考図書

彩色江戸博物学集成

彩色江戸博物学集成

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 1994/08
  • メディア: 大型本

 

和漢三才図会

和漢三才図会

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東京美術
  • 発売日: 2004/11
  • メディア: 単行本

 

東京国立博物館ニュース第721号
          2013 10-11
  *トーハク本館インフォメーション等で配布。

 


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コメント 14

ぜふ

ほんとに全部同定できるほど正確な写生ですね♪
(クモは別として)
しかも藩主だったとは・・太平の世だったことがうかがい知れますね。
それにしても48歳で隠居とはうらやましい^^

蛾は手元の図鑑だと、ウスミドリナミシャクに似ています。
by ぜふ (2013-10-11 06:51) 

斗夢

きのう散歩の途中で、一瞬オオスカシバを見ました。多分オオスカシバ。
どんどん遠のきましたので、写真には撮れませんでした、残念!
by 斗夢 (2013-10-11 08:41) 

ゴーパ1号

どれほどの目を凝らして模写しているのでしょうね。
すごいなぁ。
(あ、昨日は母親を連れて、仏頭展に行って参りました)
by ゴーパ1号 (2013-10-11 09:30) 

albireo

> ぜふ さん
わざわざ、図鑑を確認して頂き、お手数をお掛けしました。
ウスミドリナミシャクで、改めて調べて見ました。間違いないですね。
早速、追記をさせて頂きます。
本当に、有難う御座いました。
増山雪斎の隠居には、良く分かりませんが、政治的な問題もあったようです。もう少し調べてみたいと思っています。

> 斗夢 さん
残念でしたね。
僕も、残念!!と言うことが度々です・・・
諦めず、次のチャンスをゲット出来ますように(^^)v
by albireo (2013-10-11 09:44) 

albireo

> ゴーパ1号 さん
本当に、どうやったらこれほど精緻に描けるのかと、ひたすら見入ってしまいました。
仏頭展、会期末が迫ると込み始めるので、早めに行かれて良かったですね。きっと、お母様と楽しい時間を、過ごされたのでしょうね(^^♪
by albireo (2013-10-11 09:50) 

mimimomo

こんにちは^^
凄いですね~ 昆虫採集というのは子供の頃から見知っていますが、
こんな精密画を描けるというのは凄い! どんな目をしていらっしゃったのか(^^  
一週間後くらいには出かけるようがあるので、上野にも寄ろうかと思っています。
by mimimomo (2013-10-11 10:41) 

albireo

> mimimomo さん
トーハクには、本当に様々な展示品がありますから、どなたでも興味を覚えるものが、あると思います。
時間に、余裕があれば、依ってご覧になることをお勧めします。
by albireo (2013-10-11 21:06) 

sakamono

すべての絵の写真をじっくり見てしまいました。精緻で美しいですね。
今でも写真より、絵で示されている図鑑の方が、見応えがある気がします^^。
by sakamono (2013-10-12 13:43) 

(。・_・。)2k

虫眼鏡で見ながら描くんですかね
お見事ですね

by (。・_・。)2k (2013-10-12 18:21) 

bun-ta

本当に精密で美しい絵ですね。
最後のウスミドリナミシャクも、背景が和紙のように見え、
一瞬『絵』かと思ってしまいました。^^;
by bun-ta (2013-10-13 08:31) 

旅爺さん

珍しい昆虫も沢山居ますね。
そもそも「豸」・・・こんな字があったんですね。
日本人なのに始めて見ました。
by 旅爺さん (2013-10-13 10:09) 

きまじめさん

見事に細部まで描写しているのですね。
表だけでなく裏までも描いているその根気、素晴らしいです。
これが絵師によるものではなく、
大名が隠居されてからの仕事であった事も驚きでした。
by きまじめさん (2013-10-13 10:40) 

gillman

あ、これ見に行きます。すごいなぁ。
by gillman (2013-10-14 21:06) 

albireo

> sakamono さん
写真も、勿論いいですが、ここまで精緻に描かれていると、尚更ですね。

> (。・_・。)2kさん
62歳と言うことですからね。
僕は、もっと前から老眼でしたが、当時はどうだったのでしょうね…

> bun-ta さん
この写真は、どうしても上手く撮れず、最終的にはフラッシュを焚きました。
その為、コントラストが強くなり過ぎたのかも知れませんね。

> 旅爺さん
こんな字は、環境依存文字か?と思いましたが、トーハクのfacebookにも、このまま載っていましたから、取り敢えず、割合に普通の文字なのでしょうね。

> きまじめさん
別の本で見た絵では、蝶の翅が掛けている部分まで、きちんと描かれていました。
この方は、政治的な能力には欠けていたとも言われていますが、文化人としては、相当な能力の人だと思います。

> gillman さん
これと、隣に展示されている、丸山応挙の「写生帖」共々、一見の価値はあります。
是非、ご覧になることを、お奨めします。
by albireo (2013-10-15 00:15) 

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