夏秋草図屏風 [博物館]
夏秋草図屏風・部分 酒井抱一・筆 文政4年(1821)頃・作 東京国立博物館所蔵
トーハク(東京国立博物館)へ行くと、構内の木々に咲く花や、それを目当てにやって来る、鳥や昆虫の写真をよく撮っていました。
でも、最近はFacebook等の、展示替えの情報を見て、慌ただしく出掛けて来ることが多く、構内の植栽や生き物を見る機会が少なくなってしまいました。
そこで今回は、館内で見付けた、花々や鳥や虫と動物とを紹介することにします。
最初は、野分(のわき)に揺れ動く、クズとススキ、フジバカマ、どれも秋の七草に含まれている植物です。
この作品は、江戸琳派の画家、酒井抱一の「夏秋草図屏風」の秋草の一部分です。
ちなみに、「野分」とは、野の草を分けて吹く激しい風のことですが、現在で言う「台風」もまた、野分と呼ばれていました。
これも、酒井抱一の作品で、「四季花鳥図巻」の秋~冬の巻の一部分です。
これも、同じ「四季花鳥図巻」の秋~冬の巻の一部分ですが、朝顔が描かれています。
朝顔は、現在では夏の花のイメージですが、「秋の七草」の中には「朝顔」が含まれています。
但し、「秋の七草」の「朝顔」は、キキョウのことであるとの説もあり、現在ではそう考える場合の方が、多くなっているようにも思われます。
紅白の萩と、秋の虫です。
キクとフヨウ、そして(多分)ミズヒキと、カマキリがいます。
ここまでが、酒井抱一の「四季花鳥図巻」秋~冬の巻です。
江戸時代の博物画。
オニヤンマや、ウチワヤンマが、かなり細密に描かれています。
なかなか可愛らしい、ニホンリスです。
江戸時代は、想像以上に「博物学」が盛んで、沢山の動植物の写生画が描かれ、数多の博物図譜が編纂されていました。
博物館の中には、今はもう絶滅したとされている、オオカミもいました。
「狼」と漢字で書いた下には、「ヤマイヌ」と書かれています。
多分、一般的には「山犬」と呼んでいたのかも知れません。
僕にとっては、異世界のような博物館の中には、「河童」さえもいてくれました。
左の文章が読みたくて写真を撮って来たのですが、なかなか難しくて、未だ読み切れていません。
「文政庚寅年」とありますから、1830年。「天保元年」と同じ年で、今から183年前にあたります。
「肥前国、諫早の辺」と言うので、今の長崎県諫早市の辺りでしょうか。その辺りに河童が多くいて、人を取っていたと書かれています。
更には、ある和歌を書いて流すと、河童が害をなさないとか、河童除けのお札があるとか、取り敢えずそのようなことが書かれているようです。
古文書に興味がある者にとっては、こんな面白い資料が手に入るのも、トーハクの魅力の一つです。
尚、「河童」の図は、クリックすると、取り敢えず文字が分かる程度には拡大されますので、興味のある方はご覧下さい。
のんびりした雰囲気の牛もいました。
この牛型の香炉も、江戸時代の作です。
東洋館では、古代エジプトの聖なる魚「オクシリンコス」にも会うことが出来ました。
紀元前、664年~332年頃の末期王朝時代の、銅製の作品です。
夏秋草図屏風 酒井抱一・筆 文政4年(1821)頃・作 東京国立博物館所蔵
冒頭に掲げた絵は、この作品の一番左の部分です。
共に酒井抱一の作品である、この「夏秋草図屏風」と、「四季花鳥図巻」の秋~冬の巻は、9月29日まで、トーハクの本館2階で展示されています。
尚、この「夏秋草図屏風」は、元々は尾形光琳の「風神雷神図屏風」の裏側に描かれていたものです。
現在は、保存や展示の観点から、それぞれ別々の屏風に仕立て直されています。
風神雷神図屏風 尾形光琳・筆 江戸時代(1710)頃・作 東京国立博物館所蔵
この画像は、昨年の一月に撮った写真を加工したものです。
現在は、展示されていませんので、トーハクへ行っても観ることは出来ません。
尚、それぞれの屏風の画像は、クリックすると拡大します。
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トーハクには、113,000件の収蔵品があり、その内の4,000~5,000件が展示されていると言うことです。
それらの作品の多くは、定期的な展示替えにより、展示室毎に同テーマの作品と入れ替わって行きます。ですから、今回の記事に載せた作品と、次回に行った時にまた出会えるかどうかは分かりませんし、もし次回見ることが出来なければ、次は一年後か或いはもっと先になるかも知れません。
また観たいと思って出掛けて行って、その作品に会えないことは、とても残念なことではありますが、作品保護という観点からは、それも仕方の無いことです。
ですから、僕はいつも、次には何に会えるのかを、楽しみに出掛けることにしています。
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トーハクでは、展示品の多くの写真撮影が許可されていますし、写真のネット上での公開も認めてくれていて、とても有り難いことだと思っています。
しかし、作品保護のため、三脚の使用や、フラッシュの使用は、当然禁止されていますし、館内の照明も暗めに設定されていますから、撮影は決して容易くはありません。
ここでの撮影は、一眼レフカメラでなければ無理だろうと、僕は思っています。
それでも、スマートフォンのカメラ機能や、コンパクトデジカメで撮っている人をよく見掛けますが、どの程度写っているのだろうかという関心はありますが、自分でコンデジなどを使おうと言う気にはなれません。
僕は、いつものソニーのデジタル一眼レフに、フィルムカメラの頃から使っている、ミノルタの28-105ミリのレンズを付けて撮っています。
ホワイトバランスを取り敢えず蛍光灯にして、露出補正のレベルは、必要に応じて変えます。
ISO感度の設定は、出来るだけ400にしていますが、被写体によっては800にしないと、ブレてしまう場合もあります。
後は、出来る限りしっかりとホールディングをして、何枚かを連写します。
でも、撮影の際に、一番気にしなければいけないのは、他の来館者の邪魔にならないことだと思っています。
また、一部の「寄託」されている展示品等に、撮影禁止の作品があります。
ですから、撮影禁止の↓このマークにも、充分気を付けなければなりません。
時折、本当にこのマークに気が付かないのか、或いはとぼけてなのか、写真を撮ろうとして、係の方に注意をされている人を見掛けます。
やはり、博物館の中でも、人としてのルールを守って、ゆったりとした時間を過ごしていたいと、僕はそう思います。
江戸時代後期の陶芸家、仁阿弥動八(にんなみどうはち)の「色絵寿老置物」です。
七福神のメンバーの一人、寿老人の小さな置物ですが、何だか可愛らしく思えたので撮りました。
たった今、ふと思ったのですが、これまでにトーハクで撮った写真の中に、弁才天、毘沙門天、大黒天の像があります。すると、あとは恵比寿、福禄寿、布袋の像か絵が、トーハクの所蔵品で、撮影が許可されている作品にあれば、「七福神」が揃う訳です。
これで、また一つ、トーハクへ行く楽しみが増えたという気がします。
こんばんは。
河童さんは、クリックしても達筆すぎて読めません(笑)
花鳥風月は、趣きのある画ですね。撮影可なんですね、驚きました。
by 枝動 (2013-09-25 01:44)
オニヤンマとクルマヤンマは読めましたが、もう一種の名前が判然としません。(トロ○ヤンマ?)
クルマヤンマというのは今でいうウチワヤンマかオナガサナエあたりなのでしょうかね・・
by ぜふ (2013-09-25 06:25)
おはようございます。
今度、芸大美術館に仏頭展を見に行こうと思っています^^
by ゴーパ1号 (2013-09-25 09:16)
おはようございます^^
わたくしはやはり、酒井抱一の絵が一番和みます。
上野にはなかなか出かける機会がなく、こうして見せていただけるとあり難いです。
撮影が出来ると言うのが良いですね。
ところでどうでも良いことかも知れませんが、最初の絵のお花は、萩ではなくクズではないでしょうか?
by mimimomo (2013-09-25 09:44)
>枝動 さん
「河童」の文字は、今のところ僕も読めない文字が多いです…
トーハクは、以前から撮影が可能なものがありましたが、最近は積極的に対応してくれるので、
本当に有り難いと思います。
>ぜふ さん
クルマヤンマは、グンバイとも書いてありますが、仰る通りウチワヤンマのことのようです。
もう一つは「トロロヤンマ」?とでも、書いてあるのでしょうか?調べて見ましたが不明です…
>ゴーパ1号 さん
芸大美術館の仏頭展。素晴らしいですよ。
僕も、記事を書こうと思っていた所ですが、是非、いらっしゃって下さい。お奨めします。
> mimimomo さん
ご指摘、感謝します。仰る通りクズです。早速修正致しました。
いつも、本当にありがとうございます。
酒井抱一は、僕も好きな画家なので、機会があれば観に行くことにしています。
by albireo (2013-09-25 11:54)
きょう、みなさんのブログにお伺いしていてもうひとかたの文の中に「野分」がありました。ビルが多くなり野分を実感することは少なくなったように感じています。
by 斗夢 (2013-09-25 12:16)
>斗夢 さん
「野分」という言葉自体、古典的な本の中でしか、見ることは有りません。
でも、そんな言葉が、ブログの中で使われているのは、何だか素敵なことだと思いました。
by albireo (2013-09-25 23:34)
北の方のかっぱ伝説は聞いていましたが、
肥前国での河童は知りませんでした。
人に害する河童だったのですね。
博物館で写真を撮ったことがありませんが、
ISO感度を800まで上げても、
シャタースピードはかなり遅くなっているのでしょうね。
by きまじめさん (2013-09-27 00:15)
素晴らしい屏風絵と面白い図鑑ですね。
最近は爺も野分で木こり作業をしています。
by 旅爺さん (2013-09-28 10:15)
こういう記録が残っていると、昔はホントに河童という動物がいたのではないか、なんて思ってしまいます^^;。牛の丸みをおびたフォルム。思わずさわってみたくなります。
by sakamono (2013-09-28 14:26)
東博は私にとって一番の勉強できる 素晴らしい博物館です
とにかく 国宝といえども 東博所有の作品は写真を撮ってもよいということが何より嬉しいことです また 東博の HPで国宝などの作品を写真で見ることができ 日本の文化発展の為に尽くしていただいていると感謝 感謝の東博です
他の有名な私美術館では ビラや入場券の写真すら著作権に触れるということで HPやブログにも 記事の参考に載せることができません せっかく素晴らしい企画の展覧会を皆さんに知らせたいと思いましても残念です
数年前では 写真を撮っていると白い愛で見られているように思いましたが今は 撮られる方多くなりましたね
写真の撮り方 参考になりました ありがとうございます
by さねさし (2013-10-04 16:39)
叔父が酒井抱一の掛け軸を持っているらしく、一度上野の博物館に展示のため貸し出したらしいのですが、その時は見に行くことができなかったため、私はまだ見たことがなくて残念なのです…。でもそれは墨絵らしいから…夏秋草図のほうがずっと好きかも。風神雷神図の裏に描かれたというのは、どういういきさつだったのでしょうね。和紙は1枚を何枚かに薄く剥げるというけれど、描かれた絵のすぐ裏ではないですよね。ときどき花の博物画が額装され飾られているのを見ることがあって惹かれるのですが、博物画ってなんなのかよく理解できてません。今はもう博物学という言い方はしないのでしょうか?
by はてみ (2013-10-13 12:08)