雛の祭り [祭礼・行事]
雛―女夫雛(めおとびな)は言うもさらなり。桜雛、柳雛、花菜の雛、白と緋と、紫(ゆかり)の色の菫雛(すみれびな)。鄙(ひな)には、つくし、鼓草(たんぽぽ)の雛。
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いや、実際六(むつ)、七歳(ななつ)ぐらいの時に覚えている。母親の雛を思うと、遥かに竜宮の、幻のような気がしてならぬ。
泉 鏡花 雛がたり
岩波文庫版 鏡花短編集より
雛人形の成り立ちには、二つの流れがあると考えられています。
ひとつは、「ひいな」と呼ばれる、男女一対の小さな紙人形を使った、平安時代の貴族社会に於ける、少女たちのままごとあそびで、これを「ひいな遊び」と言ったそうです。
因みに、「ひいな」とは、古語で「小さく可愛い」という意味だと言うことです。
それが、「雛人形」と呼ばれるようになったのは、江戸゜時代のことだと言います。
もうひとつは、紙などで作った「人形(ひとがた)」で体を撫でて、罪・穢れを祓い、川に流すという、呪術的な風習で、これも平安時代頃から行われていたようです。
尤も、その頃は三月三日ではなく、三月最初の巳(み)の日に、人形を流す行事が行われていたようです。
やがて、こうした風習が重なって、徐々に現在の雛人形の姿に変化して行ったと考えられているようです。
雛祭りは、「桃の節句」とも呼ばれますし、季節感から言えば、本来は旧暦の三月に行うべき行事であると思います。(因みに、今年(2013年)は、四月十二日が、旧暦の三月三日に当たります)
でも、今は二月に入ると、バレンタイン商戦と、ホワイトデー商戦の合間を縫うようにして、スーパー・マーケットの売り場には、「赤いもうせん しきつめて」という、林柳波作詞の「ひなまつり」と、「 あかりをつけましょ ぼんぼりに」という、サトウ・ハチロー作詞の「うれしいひな祭り」とが、交互に繰り返し繰り返して、聞こえて来るようになります。
ところで、僕は昨年の記事に、「お内裏様と おひな様 二人ならんで すまし顔」という、「うれしいひな祭り」の歌詞に関して、―「雛人形」とは、謂わば(恐らくは平安時代の)「天皇と皇后」の姿を象った雛型であって、「雛」という言葉には、この歌の歌詞が示していると思われる「お姫さま」や「お妃さま」を指すような意味はまったくありません。― と、書いています。
その記事に、はてみさんと、ゴーパ一号さんから、朝日新聞にも同様に批判した記事が載っていることを教えて頂きました。
この歌詞の件は、確かに誤りなのですが、この歌があまりにも広く知れ渡ってしまった結果、残念ながら、もう修正の効かない状態になっているように思われます。
NHKのニュース番組の中でも、地方の雛飾りや、雛祭りに関連する風習などの紹介で、アナウンサーの「お内裏様とおひな様、素敵ですね~」とか「可愛い、おひな様とお内裏様ですね」などと言うコメントを、ここ数日の家に何度か耳にしました。
もう一つ、昨年読んだミステリー小説にも、こんな件りがありました。
「わたしの家の近くの神社で、雛祭りをやるんです。お内裏さま、お雛さま、右大臣左大臣、三人官女が揃います。」
米澤穂信 「遠まわりする雛」
角川文庫・刊
それは、「古典部シリーズ」と言う、「日常の謎」テーマの、連作ミステリーの一遍ですが、僕はこの作品を非常に気に入っているので、この件でこの小説を批判するつもりは毛頭ありません。
ただ、サトウ・ハチローさんの犯したミスが、大袈裟に言えば、こうして一つの日本語の意味を、書き換えてしまったことに、驚きさえ感じてしまいます。
尤も、そういう言葉は、実際には、他にも幾つもあると思います。けれど、その多くはいつの間にか意味が変化していたというもので、これ程出典が明確なものは、他にはないかも知れませんが…
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米澤穂信さんの、「古典部シリーズ」は、地方の高校を舞台にした、日常生活の中の様々な謎を解いて行く、殺人事件の起こらないミステリー小説です。
「遠まわりする雛」は、雛人形の装束を身に着けた少女が、「生き雛」として町の中を巡行するという祭りの最中に起こった、小さな謎を解いて行くという短編小説ですが、僕には、このシリーズの中では特に好きな作品です。
最近、あまりミステリーを読まなくなっていましたが、昨年あたりから、滅多に人の死なない「日常の謎」テーマのミステリーが気に入ってしまいました。
中でも、北村 薫さんの作品で、特に「円紫さんシリーズ」は、とても面白いですし、探偵役が落語家と言うことも、落語好きの僕には、堪らない魅力を感じます。
ここ数年、様々な慌ただしさにかまけていて、読書量がかなり減っていたような気がします。
本の片付けが一段落したら、いつか読むつもりで買っていた沢山の本を、子供の頃のように、夢中になって読んでみたいと、そう思っています。
参考図書
日本大百科全書―Encyclopedia Nipponica 2001 (19)
- 作者:
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 1994/01
- メディア: 大型本
そういえば、歌詞のこと、ありましたよね〜。
あっという間に桃の節句になってしまったなぁというのが今年の感想です。
しかも雛人形をちゃんと見ていないし…。。
桜餅だけは急いでいただきました^^;
by ゴーパ1号 (2013-03-04 11:51)
最近、東野圭吾さんの探偵ガリレオシリーズを読んでいますが、
北村 薫さんの作品の探偵役が落語家というのに興味ひかれました。
by きまじめさん (2013-03-05 11:49)
こんにちは^^
わたくしは人が殺されるミステリーばかり読んでいます(__;;;
by mimimomo (2013-03-06 14:37)
歌詞の話、読んだ記憶があります。あれから1年経ったんですね^^;。
「古典部シリーズ」アニメになったヤツを見ました^^;。
by sakamono (2013-03-08 14:47)
あらら~~
私もまるでゴーバ1号さんと一緒で、
思わず苦笑してしまいました。^^;
by ichii (2013-03-09 15:59)