SSブログ

桜の和歌 [詩・歌]

IMGP1966.jpg

        朝夕に花待つころは思ひ寝の
             夢のうちにぞ咲きはじめける

             崇徳院御製

         千載和歌集 巻一 春歌上 所収


    朝夕に桜の咲くことを待ち侘びるころ
    花を思って眠る夢の中で桜は咲き始める


 桜の和歌というと、どうしても在原業平や紀友則の歌を思い浮かべ、これまでにもブログの記事に、それらの歌を引用した記事を書いて来ました。

 でも今回は、崇徳院と西行に就いて調べながら、千載和歌集と山家集を読んでいて見付けた、桜の和歌の幾つかを紹介することにします。

DSC00338.jpg

    いづかたに花咲きぬらんと思ふより
         よもの山辺に散る心かな

             待賢門院堀川

       千載和歌集 巻一 春歌上 所収

    何処で桜が咲いただろうかと思うと
    四方の山のあたりに心が散ってしまいます

 千載和歌集は、平安時代末期に後白河院の院宣により、藤原俊成(ふじわらのとしなり)が編纂した勅撰和歌集です。

 藤原俊成は、崇徳院とも親しく、西行とも親しかったため、二人ともに多くの歌が採用されています。

 また、待賢門院堀川(たいけんもんいんのほりかわ)は、崇徳院の生母である待賢門院璋子(たいけんもんいんたまこ)に仕えていた女房ですが、当代の女流歌人として、藤原俊成が高く評価していたため、やはり多くの歌が採られています。

DSC00090.jpg

    おしなべて花のさかりになりにけり
        山の端ごとにかゝる白雲

             円位法師 (西行)

       千載和歌集 巻一 春歌上 所収


    どこもかしこもが花の盛りになった
    山の端ごとに白雲が掛っている

 「白雲」とは、言うまでもなく、遠い山の端に見える満開の桜を、白い雲に見立てたものですが、待賢門院堀川も、次のような歌を詠んでいます。

DSC00246.jpg

       白雲と峯のさくらは見ゆれども
           月のひかりはへだてざりけり

             待賢門院堀川

       千載和歌集 巻一 春歌上 所収

   遠い山の峰に咲く桜は白雲のように見えるけれど
   あの花の雲は月の光を遮ったりはしない

DSC00264.jpg

    たづねつる花のあたりになりにけり
         にほふにしるし春の山風       

             崇徳院御製

         千載和歌集 巻一 春歌上 所収

    遠くまで訪ねて来て 漸く桜に近付いて来たようだ
    春の山風が 確かにその香りを運んで来る 

DSC00332.jpg

    今さらに春を忘るる花もあらじ
     やすく待ちつつ今日も暮らさむ

             西行
  
        山家集 春歌 所収

    今更 春を忘れて咲かない桜もないだろう
    心安らかに花の咲く日を待って今日も暮らして行こう


 今年は、春になっても気温の低い状態が長く続いたため、梅の花の開花が遅れ、桜もどうなる事かという感じでしたが、確かに西行の歌の通り、花々は春を忘れずに咲いてくれました。

DSC00301.jpg

    花見にとむれつつ人の来るのみぞ
      あたら桜のとがにはありける

              西行

        山家集 春歌 所収


    花見だと言って大勢の人がやって来る
    惜しいことにそれは桜の罪ではある

DSC00198.jpg

       ねがはくは花のしたにて春死なん そのきさらぎの望月のころ

 出来得るならば、敬愛するお釈迦様が入滅されたのと同じ頃、春に桜の花の下で死にたいと願い、

    仏にはさくらの花をたてまつれ わがのちの世を人とぶらはば

 もし、自分の死後を、弔ってくれる人がいるならば、桜の花を捧げて欲しいと願うほどに、桜を愛した西行は、大勢の人が、騒がしく桜を見るのが厭わしかったのかも知れません。
 出来るならば、ひっそりと、心静かに桜の花を眺めていたかったのでしょう。

DSC00412.jpg

 「花見にとむれつつ・・・」の歌を題材にして作られた、「西行桜」という能があります。

 この能の物語の西行は、自らの庵の庭に桜が咲き始めると、その庭を出入り禁止にしてしまいます。
 しかし、西行の庵に桜が咲いたことを聞き付け、都の人たちが見物に訪れて来ると、遥々訪ねてくれたからと、改めて庭を開放します。しかし、内心は穏やかに花見がしたいため「花見にとむれつつ・・・」の歌をふと口ずさみました。
 するとその夜の夢に、桜の古木の精が老人の姿で現れ、「桜の罪とはあまりに酷い」と訴えます。
 しかし、そう訴えながらも、桜の精は西行と知遇を得たことを喜び、夜が明けるのを惜しみながら消えて行きました。

 仲の良い友人たちと、共に眺める桜も美しいし、ただひとり心静かに眺める桜もまた美しい。

 どちらを好むかは、人それぞれですが、僕はそのどちらもいいと思います。

DSC00436.jpg

    あだにちる梢の花をながむれば
       庭には消えぬ雪ぞつもれる

              西行

        山家集 春歌 所収


    儚げに散って行く梢の花を眺めていると
    庭には 溶けて消えない雪が積もっている

 あっと言う間に、今年の桜の季節も終わろうとしています。

 木々の梢から降り注ぎ、地面に散り敷いた桜の花びらは、将に溶けることのない雪のようです。

 でも、もうすぐ続いて八重桜が咲き始めます。

 そして、その他の花々も、長く続いた寒さのせいで、今年は間断もなく、次々と咲き始めています。

 次回の記事からは、他の花々を少し急いで載せて行かないと、すべてが通り過ぎて行ってしまいそうです・・・

参考図書

千載和歌集 (岩波文庫)

千載和歌集 (岩波文庫)

  • 作者: 久保田 淳
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1986/04/16
  • メディア: 文庫

山家集 新訂 (岩波文庫 黄 23-1)

山家集 新訂 (岩波文庫 黄 23-1)

  • 作者: 西行
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1928/10/05
  • メディア: 文庫
謡曲百番 (新日本古典文学大系 57)

謡曲百番 (新日本古典文学大系 57)

  • 作者: 西野 春雄
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1998/03/27
  • メディア: 単行本



タグ: 和歌 西行
nice!(19)  コメント(8)  トラックバック(0) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 19

コメント 8

mimimomo

おはようございます^^
例の本読み終えました。
能と和歌はかなり深い結びつきがあるのですね。
今は藤原正彦先生の本を読んでいますが、読み終えたら
もう一度白洲正子さんの本を読み返すつもりです。
by mimimomo (2012-04-15 08:02) 

sakamono

西行は、桜が好きだった、くらいの認識しかなかったので、
なるほど、と思いつつ読みました。桜の時期もあっという間に終わりですね。
by sakamono (2012-04-15 15:18) 

ゴーパ1号

素敵な記事、ゆっくり読ませて頂きました。
今の大河ドラマで、和歌を詠むイメージがなんとな〜くわかったので
お利行さんになった気分です^^;
by ゴーパ1号 (2012-04-15 16:18) 

春分

西行もいいですが、崇徳院もいいですね。
どうも祟りの人の印象が先立つのでいけませんね。
写真もいいですね。桜の若葉というのもとてもいいですね。
by 春分 (2012-04-15 20:19) 

きまじめさん

和歌の心得はありませんが、読ませていただいていると、
albireo さんが解説してくださっているので素直に心に入ってきました。
西行さんの「ねがはくは・・・」は以前これを知ったとき
こんな死に方ができたらいいななどと思った覚えがあります。
by きまじめさん (2012-04-16 00:08) 

ねこじたん

おいらも 和歌全くわからないのですが
昔の人々は 季節を肌で感じて 感じた事を
とても素敵な言葉にしていたのですね

by ねこじたん (2012-04-16 06:54) 

(。・_・。)2k

しっとりとした良い写真ですね(^^)

by (。・_・。)2k (2012-04-16 21:47) 

ナナ

白い雲・・・あっという間に流れていってしまいました。
本当、儚かったけど、今年も楽しませてもらいました。
息子にも初めての花見をさせようと思って、公園に散歩に行きましたよ!
なんと、信じられないことに、公園に着いたとたんに寝てしまいましたけどね。


by ナナ (2012-04-19 17:05) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0

東博の桜春の花々 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。