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花になった少年 ~水仙~ [神話・伝説]

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  スイセン  水仙    ヒガンバナ科 スイセン属

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 スイセンは、ヒガンバナ科スイセン属の植物で、地中海地方からスペイン・ポルトガル方面が原産地とされています。

 ニホンズイセンと呼ばれる種類もありますが、これも日本の原産という訳ではなく、古い時代に中国大陸経由で日本に入って来たものと考えられています。
 北陸地方の海岸等にスイセンの自生地がありますが、これは海流に乗って球根が流れ着いたことによるものだという説もあります。

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 原産地の一つが地中海地方である為か、スイセンの花はギリシア神話にも登場します。

 川の神とニンフとの間に生まれたナルキッソスは、誰もが心惹かれるほどの美少年でした。
 森に棲むニンフたちばかりか、多くの若者たちからも声を掛けられましたが、ナルキッソスは誰にも心を開くことなく自由気ままに生きていました。(「ニンフ」は、ギリシア神話に登場する若く美しい娘の姿をした精霊、或いは妖精のことです。本来のギリシア語では「ニュンペー」と言い、「ニンフ」はその英語形ですが、実際的には既に「ニンフ」という言葉が一般的になっているように思いますので、ここでは「ニンフ」とさせて頂くこととします)


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 ニンフたちの中でも、殊更にナルキッソスに思いを寄せていたのは、エーコーという名のニンフでした。
 ところが、エーコーはギリシア神話の主神であるゼウスの浮気相手のニンフたちを、嫉妬心の強い妃のヘーラーの怒りから守るために、ヘーラーの問い掛けに対して、とめどもない長話しをして欺こうとしたことがありました。そのため、女神ヘーラーの怒りを買い、相手の話す言葉のの言葉尻を繰り返す以外には、話が出来ないようにされてしまっていたのでした。

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 どんなに近付いて、想いを伝えようとしても、ナルキッソスの言葉をオウム返しに繰り返すことしか出来ないエーコーを、ナルキッソスは冷たくあしらいました。
 そうして、心を傷つけられたエーコーは、やがて声だけになってしまったそうです。
 今でも山の中などで、大きな声で叫ぶと、その言葉がそのまま帰って来るのは、声だけになってしまったエーコーの仕業だと言われています。

 そんなナルキッソスに、思いを寄せた若者の一人が、振り向いてさえ貰えなかったことへの怒りを、呪いの言葉として発しました。
 「ナルキッソスが、誰かに恋をするように」と…。「そして、その恋が決して成就しないように」と…。
 やがて、その言葉は、復讐の女神であるネメシスのもとへと届きました。

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 或る日、水辺に立ったナルキッソスは、覗き込んだ水面に、これまでには出会ったこともないほどの、美しいひとの姿を見出しました。それは、水鏡に映った自らの姿だったのですが、ナルキッソスはそのことに気付くいとまもなく、水の中のひとに恋をしてしまいました。それは、決して成就することのない、自分自身の姿への恋でした。

 それから、どれほどの時がたった頃でしょうか…。
 決して届くことのない想いを抱いたまま、ナルキッソスは水のほとりで息絶えて、死にました。

 そして何時の間にか、ナルキッソスは水面を見つめるように俯いて咲く、水仙の花になったと言うことです。

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 美少年ナルキッソスの名は、自己愛を意味する、「ナルシシズム」また「ナルシシスト」という言葉の語源として、今も忘れられることなく残されています。
 そして、エーコーの名もまた、谺(こだま)を意味する「エコー」という言葉として伝えられています。

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 ギリシア神話の世界では、人やニンフたちが花や木になってしまうと言う物語が、幾つもあります。

 その代表格が、上に掲げたナルキッソスの物語ですが、月桂樹になったダプネ。ヒアシンスになったヒュアキントスなども、よく知られています。

 人が直接花に変身すると言うのとは、些か趣が異なりますが、アドニスという若者の、こんな物語もあります。

 美の女神であるアフロディーテーに愛されたアドニスは、浮気っぽい女神の別の恋人である、軍神マルスの嫉妬による怒りをかってしまいます。
 狩りを好むアドニスの前に、猪に変身したマルスが現れ、鋭い牙で一撃のもとに刺し殺してしまいました。その時流れた血から、アネモネの花が咲きだしたと言います。
 様々な色の花を咲かせるアネモネの中でも、それはこのような真紅のアネモネだったのでしょうか。

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 しかし、時にアネモネをアドニスと呼ぶこともあると言いますが、植物学的には「アドニス」の名は、アネモネと同じキンポウゲ科の福寿草の属名とされています。

 アネモネにまつわるギリシア神話には、西風の神ゼフュロスに愛されたアネモというニンフが、ゼフュロスの妃である女神フローラの嫉妬により、アネモネの花にされてしまったという物語もあります。

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 今回は、最後に少しだけアネモネの写真を載せましたが、今年は家の庭に沢山のアネモネが咲きましたので、多分次回はアネモネの写真を沢山載せることになると思います。

 

参考図書

ギリシア神話 (岩波文庫)

ギリシア神話 (岩波文庫)

  • 作者: アポロドーロス
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1978/06/16
  • メディア: 文庫

オウィディウス 変身物語〈上〉 (岩波文庫)

オウィディウス 変身物語〈上〉 (岩波文庫)

  • 作者: オウィディウス
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1981/09/16
  • メディア: 文庫

オウィディウス 変身物語〈下〉 (岩波文庫)

オウィディウス 変身物語〈下〉 (岩波文庫)

  • 作者: オウィディウス
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1984/02/16
  • メディア: 文庫

 

 

 


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コメント 5

枝動

切なくも美しい神話ですね。神話が語源というのも素敵ですね。
by 枝動 (2010-04-21 14:28) 

mimimomo

こんにちは^^
水仙のお話は知っていましたが、
ギリシャ神話には恋や失恋のお話がらみが多いのですかしらね~
そして何かに姿を変えられてしまった、と言うお話。
by mimimomo (2010-04-21 15:37) 

春分

よくまとまった春の花の記事となりましたね。
このたびはほぼ知った話ではありましたが、いろいろな神々やニンフの思いが
想像されて、昔みた映画をもう一度見るような、よい読後感でした。
by 春分 (2010-04-21 18:08) 

HEIJI

アネモネの話は知りませんでした。
でも、アネモネの基本の色は赤のような気がしていました。
赤はなにかしら人の身体(血とか唇とか)を連想させるものがあるかもしれませんね。
それでも「赤」は好きな色です。
by HEIJI (2010-04-25 02:18) 

penpen

透けた花びらの日にキラキラした水仙がきれいですね
花になった少年、うっとりするくらいきれいだったのでしょうね
by penpen (2010-04-29 22:17) 

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