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山桜の歌 [詩・歌]

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   うすべにに葉はいちはやく萌えいでて咲かむとすなり山桜花    若山牧水

  もう四月になりましたが、相も変わらず慌ただしいままに、楽しみにしていた、上野の国立博物館の庭園の桜も、ついに見られないままに、桜の季節が過ぎてしまいそうです。

 でも、何とか別の場所で、ヤマザクラを見ることが出来ました。

 そこで、今回は僕の大好きな若山牧水の、「山桜の歌」を紹介することにします。

 

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   うらうらと照れる光にけぶりあひて咲きしづもれる山ざくら花  若山牧水



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  花も葉も光りしめらひわれの上に笑みかたむける山ざくら花    若山牧水

 

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   かき坐る道ばたの芝は枯れたれや坐りて仰ぐ山ざくら花    若山牧水 

 

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   瀬々走るやまめうぐひのうろくずの美しき頃の山ざくら花   若山牧水

 

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   つめたきは山ざくらの性(さが)にあるやらむながめつめたき山ざくら花  若山牧水

 

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 若山牧水はよく、「旅の歌人」「情熱の歌人」「酒の歌人」などと評されることがあります。
 そして、そのそれぞれの評言に相応しい歌のどれにも、牧水の代表作と言って過言ではないと言える作品が存在しています。

 また、上に引用した幾つかの歌にも見えるように、牧水は山桜の花を深く愛し、山桜を詠み込んだ歌を数多く作った歌人でもあります。さながら、「山桜の歌人」と評しても良いのではないかとも思えます。

 

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 私は山櫻の花を好む。すべての花のうち、最もこれを愛する。
 ついでに言っておくが、都会住居の人などにはこの山ざくらの花を知らずにゐる人があるかも知れぬ。東京などに咲くのは多く吉野とか染井とかいふ種類ださうで本統の山ざくらをば殆ど見受けない。この櫻は花よりも葉の方が先に萌える。その葉の色は極めて潤沢な茜(あかね)を含んで居る。そしてその葉のほぐれようとするころにほんの一夜か一日で咲き開く花の色は近寄って見れば先ず殆ど純白だが、少し遠のいて眺めるとその純白の中に何とも言へぬ清らかな淡紅色を含んでいる。  

                                  若山牧水 『自歌自釈』山櫻の花 より

                           「若山牧水全集」(増進会出版社 刊)第七巻 所収


 これは将に、牧水がどれ程に山桜を愛しんでいたのかが窺える文章だと思います。

 

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   岩かげに立ちてわがみる淵のうへに桜ひまなく散りてをるなり   若山牧水 

 

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 今回の記事で紹介させて頂いた短歌は、若山牧水が大正十二年に刊行した歌集『山桜の歌』に収められた作品のうち、山桜を歌った短歌の一部です。(この歌集には、様々な内容の歌が含まれており、その一つの章題に「山ざくら」があり、それを歌集全体の題名としたものだと思われます)

 歌自体は、大正十年に伊豆の湯河原温泉で詠んだものだと言います。


 尚、紹介した短歌の内 瀬々走るやまめうぐひのうろくずの美しき頃の山ざくら花 の歌に就いては、歌集に発表した際には
   瀬走るやまめうぐひのうろくずの美しき春の山ざくら花   となっています。

 でも、僕が随分昔に、初めて読んだ 牧水の歌集 では、元々の歌集版の の部分が となっていたため、何の疑いも持たず、だと思い続けていました。

 今回の記事を書くに当たって、改めて手元にある何種類かの本を当たって見ているうちに、そのことに気付き、更に色々と調べて見たところ、牧水が自ら、歌集発刊後に、から
に改訂していた事が分かりました。

 牧水は、歌集の刊行後にも、自らの作品に推敲を加え、更にその完成度を高めようとしていたと言うことなのでしょう。それならば、牧水の思いを汲んで、(取り敢えずそのことが解ったこの作品だけでも)やはり最終形をここに挙げて置くべきであると考え、そのようにして見た次第です。


 

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 ヤマザクラは、花の咲き始めには葉が見えないソメイヨシノ等の桜とは異なり、赤い葉が先に萌えだします。ですから、山の中腹などに咲いている木を、高速道路を走りながら遠目に見ても、その赤さから山桜だとすぐに分かります。
 
 花見をする際には、花の盛りには葉が見えず、色も薄紅色をしたソメイヨシノの方が、艶やかな雰囲気があって、見応えがあると思いますが、その風情を言えば、僕もまた山桜を推したい気がします。

 

 

参考図書

若山牧水全集 (第1巻)

若山牧水全集 (第1巻)

  • 作者: 若山 牧水
  • 出版社/メーカー: 増進会出版社
  • 発売日: 1992/10
  • メディア: -

 

若山牧水歌集 (岩波文庫)

若山牧水歌集 (岩波文庫)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2004/12
  • メディア: 文庫


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gillman

桜はともすれば、木全体としてしか見ないことが多いですが、一輪の桜の花もとてもきれいですよね
by gillman (2010-04-09 07:29) 

miff

山桜も白くていいなぁ。
by miff (2010-04-09 07:31) 

春分

バラ科の新芽の色合いはどれもいいですね。白い花色もいい。
牧水へは、あまり注目したことがありませんでした。いい歌が並んでますね。
最後のは「頃」でしょうね。「春」はおかしい。何か特別な理由があったのでしょう。
by 春分 (2010-04-09 08:32) 

さねさし

桜の花を撮りにあちらこちら我が家の近くをめぐっておりました
今年はことのほか美しく感じました 山里近くですが以外に山桜が少なく 日向薬師で素敵な一本気がついただけでした  我が家は 緑の葉っぱと白い花が盛りです あまりに大きくなりすぎ ご近所に迷惑をおかけすると今年の2月に伐採の予定でしたが 植木屋さんが忙しく遅れているうちに 花が咲き出しました オオシマサクラだと思います 咲く一週間を楽しむ為に 落ち葉の掃除や 時には毛虫など苦労はしますが 大好きなサクラです 撮ってきました桜などの写真に 牧水の山桜花の歌を書いておりました 私の持っている本には 「春」 ではなくて 「頃」 になっております いいお話ありがとうございました
by さねさし (2010-04-09 20:53) 

penpen

山桜の赤い葉っぱ、私も好きです
今日同じく山桜を載せています
うちのはどちらかというとお花のほうが先に咲いているような気がします
by penpen (2010-04-10 21:44) 

ichii

色々なブログの桜写真を渡り歩いてます。
撮影する人の人柄なども窺われるような、皆其々の桜があって、
おもしろいですね。
albireoさんの写真はどこか凛々しさがあって男っぽさを感じます。
桜もとても凛とした存在感があって、不思議と男前なイメージです。
シャープな感じが好きです。
by ichii (2010-04-11 00:36) 

じゅんぺい

ご無沙汰しています。
今年は“四弁桜”に出会えました♪
by じゅんぺい (2010-04-15 12:16) 

mimimomo

こんばんは^^
ご訪問遅くなって申し訳ありません<(__)>
留守中にお訪ねいただきありがとうございました。
若山牧水は、お酒を詠んだ歌を過去見た記憶が(我が家にありました)
でも真剣に読んだ記憶が(><  
山桜の中でも、大島桜が好きです。青い葉ですが・・・
by mimimomo (2010-04-17 20:34) 

じゅん

albireo さん、こんにちは。
なるほど、一般に花に目がいきがちですが、
山桜はこんな葉の赤を持っているんですね。
山桜の赤い葉、探してみたくなりました。
by じゅん (2010-04-20 16:04) 

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