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花の下にて・・・ [詩・歌]

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                ねがはくは 花のしたにて春死なん
                        そのきさらぎの 望月の比(ころ)

                                      西行法師

                         〔新古今・巻18(雑歌下)・(1993)〕題しらず

 桜と言うと、自然に僕の心に浮かぶ、幾つかの和歌があります。

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 在原業平や紀 友則の歌。そして西行の、この歌もその一つです。

 如月(きさらぎ)の望月と言えば、二月の十五日のことですが、その日は釈迦が亡くなった日とされています。
 
 尤も、釈迦の入滅の日に就いては、諸説があり、あまりさだかではないようです。

 とは言え、当時から日本では、そのように信じられており、多くの仏教寺院では、「涅槃会(ねはんえ)」という行事が行われています。

 釈迦が入滅したとされる、その2月15日頃に死にたいと、仏に仕える身である西行は願いました。
 それはまた、西行が心惹かれてやまなかった桜が咲く頃でもありました。

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 結局、その願いは叶えられ、文治六年二月十六日に西行は亡くなります。
 その日は、現在の太陽暦に換算すると1190年3月23日にあたるようですから、恐らくは、西行の好きだった桜の花もまた、美しく咲き誇っていたに違いありません。

 西行は、釈迦の「涅槃会」に一日遅れて亡くなった訳ですが、それは仏弟子としての奥床しさでしょうか。


          仏には さくらの花をたてまつれ
                 我(わが)のちの世を 人とぶらはば
                     
                                    円位法師

                  〔千載・巻17(雑歌中)・1067〕

 西行の家集である「山家集」には、「ねがはくは」の歌に続いて、この歌が載っています。

 自分が死んで仏になったら、そしてもしも、冥福を祈ってくれるなら、どうか桜の花を供えてほしいと、西行は自らの思いを和歌に託しました。

 それほど、桜が好きだったのでしょう。

 「山家集」には、こんな歌も載っています。


          吉野山 梢の花を見し日より 
                心は身にも 添はずなりにき

                          西行法師

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 因みに、「仏にはさくらの花を」の歌の作者名が「円位」となっていますが、これは西行が出家した当時の名で、他にも幾つかの名を名乗っています。

 江戸中期の小説家である「上田秋成」の「雨月物語」に収められている「白峰」という物語があります。

 その物語の中で、西行は讃岐の松山にある崇徳上皇の陵墓を訪ねます。
 
 まさしく「円位 円位」と呼ぶ聲す。…と、墓前で供養をする西行の前に、崇徳上皇の怨霊が現れるのですが、何度読んでもちょっとどきどきするシーンです。
 「円位」という名を目にすると、ふとそんなことを思い浮かべてしまいます。

 平安時代の後期から鎌倉時代に掛けて、僕には何人かの興味深い人物がいます。
 その一人が、「西行法師」です。
 もう一人は、以前記事に載せた「明恵上人」。明恵は、恐らくは少年の頃に、西行と出会っているようです。

 そして、もう一人が「崇徳上皇」です。崇徳院もまた、西行と深い親交があったと伝えられています。
 崇徳院に就いては、僕はまだブログの記事に書いたことはありませんが、何時か些かなりとも触れてみたい、非常に心惹かれる人物です。

 

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 また、色々と慌しくしているうちに、桜の季節も終わりに近付いてしまいました。
家の近くの桜も、ソメイヨシノは殆ど散って、僅かな名残の花が枝に残っているだけです。

 

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 今更、桜の記事と言うのも、些か時季外れな気もしましたが、今朝近くの中学校の側を通ると、八重桜がみごとに咲いていました。(尤も、その八重桜の写真は撮れませんでしたが・・・)
 
 と言うことで、かろうじて間に合ったと言うことにして、この記事をアップすることにしました。

 

参考図書

新訂 新古今和歌集 (岩波文庫)

新訂 新古今和歌集 (岩波文庫)

  • 作者: 佐佐木 信綱
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1959/01
  • メディア: 文庫

千載和歌集 (岩波文庫)

千載和歌集 (岩波文庫)

  • 作者: 久保田 淳
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1986/04
  • メディア: 文庫
山家集 (1957年) (岩波文庫)

山家集 (1957年) (岩波文庫)

  • 作者: 西行
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1957
  • メディア: 文庫

西行 (新潮文庫)

西行 (新潮文庫)

  • 作者: 白洲 正子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1996/05
  • メディア: 文庫

西行物語 (講談社学術文庫 497)

西行物語 (講談社学術文庫 497)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1981/04
  • メディア: 文庫

 


タグ:西行 和歌
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コメント 6

kaisersd

私も、願わくば桜吹雪と鯉のぼりの時に逝きたい。
この季節、この国に生まれた事に喜びを感じます。
by kaisersd (2009-04-16 02:04) 

SilverMac

桜を愛でて死にたい、日本人共通の願いではないでしょうか。
by SilverMac (2009-04-16 05:52) 

春分

今年の東京は、満月の夜に桜が満開でした。
当然私も西行を思い出し、その日、その夜亡くなっていく見知らぬ多くの方を
想像していました。何人かは、この歌を思い出しながら、亡くなられたことでしょう。
by 春分 (2009-04-16 05:58) 

はるまきママ

ムスメは仏教系の幼稚園に通っていたので、涅槃会があったなぁ
と、この時期懐かしくなります。
(まだ卒園してから2年しか経ってないのに。^^;)

ゆっくりと花見をすることなく、ソメイヨシノが散ってしまいました。
でも、ランドセルに花びらをつけては帰ってきていたので、
満開の時期は家の中で”花びら見”が出来ました。(笑)
by はるまきママ (2009-04-16 09:22) 

lapis

西行のこの歌は、僕も大好きです。
albireoさんが興味深いと仰った明恵、西行、崇徳院は、僕も感心のある人物です。
>何時か些かなりとも触れてみたい
ぜひとも、崇徳上皇の記事は拝見したいので、楽しみに待っています。
過去記事をTBさせていただきましたので、よろしくお願いいたします。
by lapis (2009-04-16 21:21) 

sakamono

冒頭の西行の歌だけは、聞いたコトがありました^^;。
曇り空のしっとりとした桜の色も、また良い感じがします。
by sakamono (2009-04-19 18:53) 

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