国宝 阿修羅展 [展覧会]
2009年3月31日より、上野の東京国立博物館で開催されている、「興福寺創建1300年記念 国宝 阿修羅展」へ、行って来ました。
「国宝 阿修羅展」の展示は、第一章から第四章まで、四つの部門による構成となっています。
第一章 興福寺創建と中金堂鎮壇具
興福寺は、今から約1,300年前に創建されたましたが、その建立に際しての地鎮の為に埋納された「鎮壇具」が、中金堂基壇の須弥壇中から出土しています。
約1,400点が出土されたという鎮壇具は、現在東京国立博物館と興福寺とに分かれて保存されています。
出土品は、鏡・水晶やガラス・琥珀などの玉、貨幣、砂金・延金、また金銅や銀製の盤など、豪華な品ばかりです。
今回の展示の導入部では、それらの品々が展示されていますが、展示品の殆どは国宝の指定を受けています。
第二章 国宝 阿修羅とその世界
ここから、いよいよ阿修羅とその仲間たちである、西金堂諸仏の登場となります。
しかし、まず最初は、法隆寺からの特別出品「阿弥陀三尊像」と、この像が納められている「厨子」が展示されています。この仏像は、橘夫人の念持仏と伝えられています。
橘夫人三千代は、西金堂建立の発願者であった光明皇后の生母でした。そして、その西金堂は、皇后が生母の一周忌の追善供養のために建立されました。そのため、このコーナーの最初に、「伝・橘夫人念持仏 阿弥陀三尊像」を置いたようです。
続いて、仏教の儀式などで打ち鳴らす、鐘というよりは、金属製の小太鼓か銅鑼のような「華原馨(かげんけい)」が展示されています。「華原馨」は「金鼓(きんこ)」とも呼ばれ、獅子や龍による美しい装飾が施されています。近くに置かれた「波羅門(ばらもん)立像」は、その「華原馨」を打ち鳴らす役目を負っています。これは創建時のものは失われ、現行品は安土桃山時代の作ということです。その為、国宝や重文の指定は受けていません。小さな像ですが、そのユーモラスな姿には一見の価値があります。
「阿弥陀三尊像」と「華原馨」。それぞれの小さな部屋を過ぎると、次は大きな部屋に入ります。
そこには、通路を挟んで、「釈迦十大弟子像」のうち現存の六体と、「八部衆像」の内の六体が向かい合う形で立っています。
どの像もが、ガラスケース無しの展示で、かなり近づいて観ることが出来ますので、一体一体をじっくりと鑑賞することが出来ます。
但し、正面奥にいる「五部浄(ごぶじょう)」は、破損状態が激しく、胸から上のみが残されています。そのため、この像だけはガラス・ケースでの展示となっています。また、その隣には「五部浄右腕残欠」が展示されていますが、これは恐らくは明治時代に興福寺から流出したもので、個人の所蔵を経て、現在は東京国立博物館に所蔵されています。
因みに、「釈迦十大弟子」の尊名は、以下の通りです。
その内の☆印の付いた尊名が、興福寺に現存するとされる像ですが、造立当時に付けられた尊名と現行の像の呼称とが一致しているかどうかは定かではないということです。
舎利弗(しゃりほつ ☆
目犍連(もっけんれん)☆
大迦葉(だいかしょう)
須菩提(すぼだい)☆
富楼那(ふるな)☆
迦旃延(かせんえん)☆
阿那律(あなりつ)
優波離(うぱり)
羅睺羅(らごら)☆ 4/19まで展示
阿難(あなん)
続いて、「興福寺・八部衆」の尊名を挙げて置きます。
五部浄(ごぶじょう)
沙羯羅(さから)
鳩槃荼(くばんだ) 4/19まで展示
乾闥婆(けんだつば)
阿修羅(あしゅら)
迦楼羅(かるら)
緊那羅(きんなら)
畢婆迦羅(ひばから) 4/19まで展示
但し、これらの尊名の半分は興福寺像に独自のもので、法華経等に説かれる尊名とは、異なっている名称があります。また、その尊名に関しても、乾闥婆・阿修羅・迦楼羅・緊那羅 以外はよく解らないということです。
さて、「十大弟子」と「八部衆」の展示室まで来ましたが、肝心の「阿修羅」にはまだ会えません。
このあたりの展示は、見学者を些か焦らすような構成になっているようです。
東京国立博物館の展示の総合プロデューサーは、デザイン室長の木下史青(きのしたしせい)さんという方だそうですが、その構成の巧みさは、将に感動的ですらありました。
僕は、奈良・興福寺へ阿修羅に会うために行く時、近鉄・奈良駅を降りて、興福寺の境内に入り、国宝館へと向かう途中、既に何十回も来ているにもかかわらず、その度にワクワク・ドキドキしながら、歩いて行きます。
今回の展示構成には、そんなワクワク・ドキドキを再現してくれる、心憎い演出が感じられました。
少し薄暗い廊下を抜けて行くと、緩やかなスロープがあって、それに沿った壁越しに、少し見下ろす感じに、阿修羅の姿が見えます。
壁には、二箇所に窓が切ってあり、小さな子供や車椅子での見学者は、そこから阿修羅を観ることが出来るようになっていました。
スロープを降り切ると、実際に手が届くと言う訳には勿論行きませんが、感じとしては殆ど手が届くのではないかと思われるほどに近くで、阿修羅と対面することが出来ます。
些か、見上げる感じですが、360度、あらゆる角度から、阿修羅の姿を拝むことが出来るようになっています。
阿修羅の周りをゆっくりと廻って行くと、その顔が微妙に表情を変えて行く様子が、良く解ります。
ガラスケースに遮られることなく、直接観る阿修羅の姿は、これまでに会った時以上に、清新で生き生きとした美しさを感じさせてくれました。
「本当に…こんなに、すごいのね…」阿修羅の正面の顔を、斜め左から観るあたりで、若い女性の感激したような声が聞こえて来ました。多分、初めて阿修羅に出会った人なのでしょう。そんな風にして、阿修羅は観る人の心を捕えて行くのだと、改めて思った瞬間でした。
第三章 中金堂再建と仏像
以前の記事にも書きましたが、興福寺の中金堂は、江戸時代中期に火災で焼失後、「仮金堂」という形で建てられたまま、現在に至るまで本格的な再建はなされていません。
興福寺では、来年(2010年)には、中金堂の立柱を行うべく、寺域の調査と整備に取り組んでいます。
このコーナーでは、現在仮金堂に安置されている鎌倉時代の巨像を中心に展示がされています。
展示室に入るとすぐ、2メートルほどの「四天王像」が、邪鬼を踏み付けて立っています。その大きな四天王像は、かなりの迫力を持って、見る者に迫って来ます。
その先には、「薬王菩薩」と「薬上菩薩」の二体の像が立っています。二体とも3.6メートルを超す巨像ですから、四天王にも勝るとも劣らない迫力があります。
この二体は、仮金堂の本尊である「釈迦如来」の両脇侍として造立されていますが、肝心の本尊である「釈迦如来」(今回は展示されていません)は、江戸時代の造立になるものです。
なお、釈迦如来の両脇侍は、普通は文殊菩薩と普賢菩薩ですが、稀に、薬王菩薩と薬上菩薩を両脇侍とする作例も見られます。
因みに、薬王菩薩と薬上菩薩の二菩薩は、仏典によれば兄弟であるとされています。
その他、このコーナーには、何れも鎌倉時代に作られた、破損の激しい仏像が展示されています。
第四章 バーチャルリアリティ映像 「よみがえる興福寺中金堂」「阿修羅像」
ここでは、三次元計測機でデータを取り、コンピュータ上に再現された「阿修羅」と中金堂の映像が、大画面で放映されています。
でも、僕は出来るだけ実物を観る為に時間を使いたかったので、こちらは少し観ただけでパスしました。その代り、阿修羅展のミュージアムショップで、同内容のDVDを販売していたので、それを買って来ました。
「国宝 阿修羅展」に際して、東京国立博物館では、開館時間を延長しています。
平日は、6時まで(入館は5時30分まで)
金・土・日・祝日・休日は、8時まで(入館は7時30分まで)となっています。
僕は、当初4月3日の金曜日の夕方に行くつもりでいましたが、仕事の段取りが付かず、結局7時半には間に合いませんでした。
しかし、そこで館員の方に混雑状況を尋ねると、今日は開門前から600人程が並んでいたという話で、どうもそれは、連日そうした状態のようです。
実は、僕は父親と一緒に行く予定でいました。以前からこのブログにお付き合い頂いている皆さんはご存じと思われますが、父は一昨年の十二月に脳梗塞を発症して以来、些か歩行が覚束ない状況が続いています。その為、少しでも混雑を避けるため、翌朝早めに来るつもりでいたのですが、それは却って無理なことであると分かりました。
混雑状況を自分の目で確かめたかったので、翌4日の土曜日にもう一度行くことにしました。でも、色々と用事が出来たため、実際に上野に着いて東博に入れたのは、夕方の7時20分頃でした。
平成館に入ると、思いの他に空いていて、短い時間でしたが、かなりゆったりとした気分で、阿修羅に会うことが出来ました。
また、東博に電話で確認したところ、夕方5時過ぎからは、概ね空いているらしいことも分かりました。
但し、混み具合は日によって異なると言うことですから、そのあたりはご注意下さい。更に、そうした情報がネットに載り始めると、混雑状況も当然変わって来ると思います。やはり、早期に行かれることをお奨めします。
結局、僕は5日の日曜日の夕方に、父と出掛けて来ました。
正門で車椅子を貸して頂き、5時過ぎに平成館に入りましたが、比較的空いていて、車椅子を押しての移動も楽に出来ました。
その際、東博のスタッフの方たちから、常に親切な対応をして頂き、大変心地良く展観することが出来ました。
東博スタッフの皆様には、心よりの感謝を申し上げます。
「国宝 阿修羅展」の東京展は、6月7日までです。
7月14日~9月27日までは、「九州国立博物館」へ巡回します。
その後、「興福寺」へ帰山の後 10月17日~11月23日まで、興福寺仮金堂に於いて
「帰山記念」として「お堂でみる阿修羅」が開催されます。
同時に、「北円堂」も、特別照明による公開が実施されるということです。
「国宝 阿修羅展」 参考サイト
当ブログ 「興福寺」及び「阿修羅」関連記事
参考図書
「国宝 阿修羅展」 図録
「国宝阿修羅展」のすべてを楽しむ公式ガイドブック (ぴあMOOK)
- 作者:
- 出版社/メーカー: ぴあ
- 発売日: 2009/03/19
- メディア: 大型本
大変な人気のようですね。東博の方たちの力の入れようも伝わってきます。演出も楽しそうですね。
by penpen (2009-04-07 22:54)
友人たち平日昼ごろでも20分待たされたとか 始まったばかり 桜のころということもあるのかも知れません 夕方がいいと云われましたが いつ行こうかと作戦を練っています 阿修羅像 ライトの加減で 興福寺とはずいぶん違って見えたとか 橘夫人の念持仏もぜひ見たいと思っています
by sanesasi (2009-04-08 21:41)
ガラスケース無しに、阿修羅像を360度見ることが出来るということは素晴らしいです!
お父様とご一緒にご覧になることが出来て、良かったですね。
東博の対応も良かったようで、何よりだったと思います。
by lapis (2009-04-08 23:36)
2時間待ちというのも聞きましたけど、比較的空いていて良かったですね。
お父様もご一緒で、何よりです。
記事を読んでいて仏像が浮かんできて、わくわくしながら読みました。
自分も行った気分に少しなれました。
ありがとうございます。
by kaisersd (2009-04-09 01:56)
albireoさんの阿修羅像に対する思い入れが伝わってくるような記事です。
それほど興味があるわけでもない自分でも、引き込まれるようです。
by sakamono (2009-04-12 17:55)
混んでるようですね~
人混み苦手・・・考えちゃう(’。‘
by mimimomo (2009-04-16 20:45)