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千葉市美術館にて [展覧会]

           

千葉市中央区の「千葉市美術館」では、9月17日まで都市のフランス 自然のイギリス
~18・19世紀絵画と挿絵本の世界~」
を開催中です。

この展覧会は、現在改修工事中の「栃木県立美術館」の所蔵品を、工事中に各地の美術館で企画展として公開しようという試みの一環として、開催されているということです。

今回の展示の目玉は、何と言っても、ラッファエル前派のダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの絵画「レディ・リリス」 (1867年制作)だと思います。

その「レディ・リリス」の画像を載せようと思ったのですが、この作品は実際には美術館の所蔵品ではなく、個人蔵の寄託品であるということでしたので、勿論著作権法上の問題は無い筈ですが、掲載は控えることにしました。

どんな作品か、興味のある方は下記の「栃木県立美術館」の過去の展覧会概要のページをご覧下さい。
 http://www.art.pref.tochigi.jp/jp/exhibition/t050611/index.html

この「レディ・リリス」 という作品は、一応はキリスト教絵画として位置づけられるのでしょうか・・・。
旧約聖書・創世記には、最初の人間としてアダムとイブ(或いはエヴァ)が登場します。
この絵画に描かれた「リリス」という女性は、そのアダムの最初の妻であったという伝説がありますが、不思議なことに旧約聖書にはこの女性は登場しません。

「リリス
アダムとともに土よりつくられた最初の女性で,彼の妻。淵源(えんげん)はバビロニアの民間伝説にさかのぼり,ユダヤ教典タルムード中に見いだせる。預言者エレミアの処女の母ベン・シラが語ったと言われる話では,リリスはアダムとの間に多くの悪魔を生んだがアダムに従わず,のろいの言葉とともに紅海に飛び去って隠れるが,3人の天使が主の命令で捜し出し,毎日彼女の子ども100人を殺すと脅迫する。リリスは許しを請い,その代りに人間の赤子を苦しめる力を得る。天使の名まえが書いてある家には近寄らぬことを誓ったので,紀元前7,8世紀のヘブライやカナンの魔除けの呪文にはその記録が残っている。」平凡社 世界大百科事典DVD版 より引用

普通、アダムの妻は、イブ、或いはエヴァと呼ばれています。
些か不可解な話ですが、旧約聖書の大本は、もともとヘブライ神話の一部でした。元来神話というものは口承によって伝えられて来たものである為、同じような物語でも幾つものバリエーションがあるのが普通ですから、アダムにはリリスという妻がいたという、別伝があったと考えれば納得の行く話ではあります。
そうした神話の物語を、キリスト教の聖典として取り込む際に、当時の幾つもの信徒集団の中で、強い勢力を持つ人たちが、謂わば自分たちにとって何らかの意味で都合の良い部分を選んで、編纂したと考えられます。そのため、現行の聖書からはリリスの物語が欠落したのだと言えると思います。
( 同様に、イエスが登場する前後に於けるキリスト教関係の文書も、現行の新約聖書に収録されているもの以外にも、相当数の文書が存在していました。それもまた、当時優勢な勢力の信徒たちが、自分たちの納得のゆく内容の文書のみを選定して、新約聖書として取り纏めたと言われています。その為、聖書の周辺には、現在も「外典」あるいは「偽典」と呼ばれる、多くの文書群が存在しています。近年、様々な形で取り上げられる「ユダの福音書」やマグダラのマリアに関連する「マリアの福音書」なども、そうした文書の一つです)

そんなことを考えていると、この作品が本来の意味でのキリスト教絵画であるのかどうか・・・。日本人で、しかもキリスト教徒ではない僕には、どう考えたらいいのかよく解らなくなります。
しかし、同時に信仰と言う枷に捕らわれることなく、さまざまな美術作品を自由に楽しめるということに於いては、自分が信仰的には自由な観念を持つ日本人で良かったと、常々思っています。

さて、展覧会場をゆっくりとたどって行くと、ドーミエの諷刺画や、ドレの製作による「失楽園」や「神曲」の版画など、昔読んだ本、あるいは読みかけの本に載っていた挿絵なども数多く展示されていました。

僕は作品を眺めながら、これらの作品を所蔵する美術館は、我がブログ仲間の春分さんのお宅の方にあるのだなぁとか、ラファエル前派のダンテ・ゲイブリエル・ロセッティと言えば、やはりブログ仲間のlapisさんが好きな画家だなぁ、などと思いながら順路を辿って行きました。

すると、不意に見たことのあるイラストのような絵が目に入って来ました。
それは、1870年頃に、イギリスで刊行された、妖精画の絵本でした。
この本なら、僕も持っています。勿論、僕の本棚にある本は、1870年代の当時に刊行されたものではなく、遙かな後になって作られた複製本。つまりは復刻版です。

今日の記事は、美術展の紹介記事のつもりでした。しかし、いつの間にか何だかとりとめもない内容になってしまいましたが、長い文章にお付き合い頂き、ありがとうございました。
今回は、画像があまりありませんでしたので、その復刻版の妖精の絵本「FairyLand」から、幾つかの絵を紹介しておくことにいたします。

 

 

これが展示されていた絵の一つです。

画家の名は、リチャード・ドイル。1800年代にロンドンで活躍した画家だということです。
元々は、風刺画家として知られていた人物だ言うことですが、後には本の挿絵や、絵本なども手がけたそうです。
また、ドイルは超自然的な事象に興味を持っていた画家で、妖精の絵などを好んで描いていたと言うことです。
図録の解説には、この絵本「FairyLand」は、その代表作の一つであると書かれていました。

以下は、今回の展覧会に展示されていたものではありませんが、楽しそうな絵をいくつか載せておくことにします。

 

 このサイズでは見辛いので、↓ 下をご覧下さい。

 

 

 

 

以下のキノコと妖精の絵は、ちよっとした物語になっています。

 

 

 

 

 

 

作者のドイルという名前は、どこかで聞いたことがあると思われた方も多いと思います。
そう思われた方は正解です。このリチャード・ドイルの甥が、彼の名探偵シャーロック・ホームズの生みの親、サー・アーサー・コナン・ドイルだということです。

そう言えば、コナン・ドイルは、妖精の存在を信じており、当時のイギリスの少女が悪戯で作った妖精のトリック写真に、まんまと騙されてしまったというエピソードもありました。
つまりは、この伯父さん(または、叔父さん?)の影響が大きかったということかも知れません。

この妖精の絵本は、いつかブログの記事にしようと思っていて、一枚目の「妖精の女王の空のドライブ」と題された絵は、以前にスキャナで取り込んでいたものです。

しかし、ここのところスキャナの具合が良くなく、他の絵はカメラで写したため、色があまり良く出ませんでした。
ですから、何れまた機会を見て、この絵本の絵をご紹介しようと思っています。

 

 


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コメント 12

ここの美術館は行った事があります。
いい絵ですね、

いってみたいな。^^
by (2007-09-11 00:47) 

おはようございます^^
千葉市の美術館は一度だけ何を見に行ったか覚えていないようなものを見に行きました^^
それ以来二度と行っていません。こう言うのをやっていることも知りませんでした。
それにしてもスキャナーで取り込むのと一度カメラで写したのを取り込むのと全然色が違ってしまうのですね・・・驚きでした。
by (2007-09-11 04:51) 

Silvermac

聖書に限らず、歴史は都合の良いように造り替えられますね。沖縄の集団自決の件、まさにその一例だと思います。
by Silvermac (2007-09-11 06:45) 

penpen

旧約聖書がもともと神話だったこと、イブ以外のリリスの存在、どちらも初めて聞きます。大変興味深く記事を拝見しました。絵がとってもかわいいですね。鳥さん、お魚さん、カエルさんと、こんなに仲良く暮らせたらいいですね。
by penpen (2007-09-11 20:34) 

妖精の絵が素晴らしいです(*^^)v
by (2007-09-11 22:54) 

sakamono

こうした聖書周辺の話というのはおもしろいですね。自分も1冊持っていますが、最初の方をちょこっと読んだきりです^^;。絵の方もマンガチックな感じで、おもしろいです。ペン画なのでしょうか。
by sakamono (2007-09-12 07:50) 

はるまきママ

妖精の絵に、すっかり引き込まれてしまいました。
表情にちょっとドキッとさせられたり・・・・・
面白そうな展示ですね!^^
by はるまきママ (2007-09-12 17:00) 

「栃木県立美術館」にロセッティの「レディ・リリス」があるとは、知りませんでした。新潟県立近代美術館にもミレイの小品がありますし、日本にも結構ラファエル前派の絵があるものなのですね。
妖精画も楽しませていただきました。仰るように、ドイル家は、妖精好きの血筋のようですね。(笑)
「レディ・リリス」つながりで、過去記事をTBさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
by (2007-09-12 23:59) 

sera

こういうような絵が大好きです
夢を与えてくれる
キノコ、ノームや妖精の世界、
今でも、好きです(^_^)v
by sera (2007-09-14 07:30) 

konkon

レディ・リリス、人間にとっては怖いお話しだけど、その姿は魅惑的ですね。
ドイルの絵、ファンタジックで、楽しいです。
by konkon (2007-09-14 21:31) 

はてみ

絵を見ていたら、おやゆび姫の話を思い出しました。
by はてみ (2007-09-16 22:02) 

春分

妖精とリリスと、魅力にあふれる記事を、見逃しかけておりました。
栃木県立美術館は改装中でしたね。悪からぬ美術館ですが人の入りは本当に
悪く、県の怠慢を憂いていました。でもリリスは記憶にないです。市民も怠慢か。
宇都宮美術館では記事を1つ書いたから、県立も再開したら書かないとなぁ。
それにしてもalbireoさんにlapisさんと並べて頂けるとは恐縮し街も歩けませんよ。
by 春分 (2007-09-17 06:10) 

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