SSブログ

レオナルド・ダ・ヴィンチ -天才の実像  2   [展覧会]

現在、東京国立博物館で開催中の「レオナルド・ダ・ヴィンチ―天才の実像」は、本館第五室に設けられた第一会場での「受胎告知」に続いて、博物館の奥にある平成館が第二会場に充てられています。

ここでは、万能の天才と言われているレオナルドの秘密に迫ろうとする展示が行われています。

その展示内容は、フィレンツェのウフィツィ美術館で、今年の一月まで開催されていた企画展が元になっているそうです。

そのテーマは、

 「かたち」のとらえ方

  万物の「運動」

  絵画への結実

  という、3つの大きな枠組みから出来ています。

                

第二会場前の告知ポスターには、有名な「ウィトルウィウス的人体図」がデザインされています。

このデッサンの題名にある「ウィトルウィウス」とは、ローマ時代の建築家の名前です。
これは、正方形と円の中に、人体を配置し、幾何学的な原理で人体の比率を探ろうとして、描かれたものだといいます。
(注: このデッサンの実物は、今回は展示されていません)

 

平成館の二階にある展示室へ向かって、エスカレータ(あるいは階段)で上がって行くと、正面の窓の前に、レオナルドが考案した人間が飛行する為の翼を、実際に作って組み立てた模型が吊り下げられています。言うまでもなく、その翼で本当に飛べる訳ではありませんが・・・。

しかし、それはまさに鳥の翼を仔細に研究した成果である事が、明らかに見て取れる姿をしています。

でも、写真撮影は出来ませんでしたから、この展覧会を観た帰りに不忍池で撮った、些か近い形に翼を広げたユリカモメをご覧下さい<m(_ _)m>

 

                   

この展覧会では、レオナルドの残した多くの手稿の最新の研究成果に沿って、そこに描かれたデッサンやメモを元に作られた、様々な再現模型やビデオ映像を用いて、更にはマルチメディアを駆使した展示が行われています。

 

                     

                   聖アンナと聖母子 ルーブル美術館蔵

展示の最後は、レオナルドの研究成果の「絵画への結実」として、視覚や・光と影の捉え方、そして「空気遠近法」と呼ばれる技法に就いての具体的な解説を見ることが出来ます。

上に挙げた「聖アンナと聖母子」のぼやけた背景も、空気遠近法の技法で描かれています。

今回の展覧会では、残念ながら絵画作品の実物は、第一会場での「受胎告知」以外は展示されていませんが、多くの高精細な複製画によって、レオナルドの絵画作品の全体像を知ることが出来ます。

また「受胎告知」に次ぐ、展示の目玉として「伝・レオナルド・ダ・ヴィンチ」の作品とされる「少年キリスト」の頭部像も、この第二会場に展示されています。
テラコッタ(焼成粘土)製のその像には、レオナルドの作品であると言いきれる確証はないそうです。

しかし、この作品をつぶさにご覧になられたという、日本での本展覧会の監修をされている、恵泉女学院大学准教授の池上英洋さんは、「少なくとも「伝レオナルド」とされる幾つかの彫刻作品の中で、レオナルドの真作である可能性の高い作品だといえるだろう」(本展図録 P45)として、「現時点では、本作を「レオナルドかその周辺の人」の手になるものとしておきたい」と、述べておられます。

と言うことで、見学に行かれる方は、この作品も是非良くご覧になることをお奨めします。

 

付記
今回の展覧会の内容は、とても素晴らしいものであると思いました。

ただ、僕はレオナルドの手稿などを見るうちに、一つの心に引っ掛かるものを感じ続けています。

それは、今回の展示ではあまり触れられていないのですが、レオナルドが多くの兵器や要塞の素描を残していることです。
僕はもとより、戦争や兵器を好むものではありません。
しかし、レオナルドがその手稿に、多くの兵器を描いているからと言って、直ちに批判的な見方をしようとも思いません。
人は、どんなに先進的に技術を持ち、斬新な思考能力を持っていたとしても、決してその「時代の子」であることからは、逃れようもないことです。
それでも、何故、兵器なのか?という疑念が、僕の心に蟠り続けていました。
ところが、先日書店で手にした一冊の叢書に、その答の一端が記されていました。

それは、先程引用させて頂いた、池上英洋准教授の書かれた「レオナルド・ダ・ヴィンチと受胎告知」(平凡社ライブラリー  京都大学 岡田温司教授との共著)という新刊書でした。

私生児として生まれたレオナルドは、フィレンツェでも当時最大の工房で多くの技術を学びながらも、あまりうだつの上がらない日々を過ごしていたようです。
しかし、三十台の頃、「ミラノへ仕官し、おもに軍事面を期待される技師として採用される。そう自ら売り込んだからだ」(「レオナルド・ダ・ヴィンチと受胎告知」P178)ということです。

つまりは、生活の糧を得るため、あるいは職人として世に出るためだったという事でしょうか。
それにしても、この事実は、多分暫くの間は、僕の心から消え去ることがないような気がします。

しかし、そんなことが気になるのは、類い稀な「平和憲法」を頂く現代の日本に住む僕が、やはり「時代の子」であるということなのかも知れません・・・。

                 尚、最後の桜の写真は、東博の構内に咲いていた、吉野枝垂です。

 

 

参考図書 

レオナルド・ダ・ヴィンチと受胎告知

レオナルド・ダ・ヴィンチと受胎告知

  • 作者: 岡田 温司, 池上 英洋
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2007/04
  • メディア: 単行本

 展覧会図録

 

 


nice!(11)  コメント(10)  トラックバック(1) 
共通テーマ:趣味・カルチャー

nice! 11

コメント 10

おはようございます^^
レオナルド・ダ・ヴィンチのような天才が居るって、不思議です。天は二物も三物も与えられたのですね~。
by (2007-04-14 05:31) 

さねさし

「レオナルドの研究成果の「絵画への結実」として、視覚や・光と影の捉え方、そして「空気遠近法」と呼ばれる技法に就いての具体的な解説を見ることが出来ます。」 のお言葉に写真にも 書にも通じることと思い ぜひ解説を読みに行きたいと思います 
by さねさし (2007-04-14 10:35) 

春分

なるほど。
機能美という点で、兵器、要塞は避けられないテーマでしょうね。
たしかに忘れていてはいけない一面と思います。
by 春分 (2007-04-14 10:41) 

sakamono

この人体図は、見たコトがあります。「ウィトルウィウス的人体図」という名前で呼ばれているなんて、初めて知りました。いつもながら、いろんなコトを知るコトができる記事でした。
by sakamono (2007-04-14 13:01) 

Silvermac

兵器は無駄を削ぎ落とすことによって最高の性能が生まれるようです。
by Silvermac (2007-04-14 17:26) 

受胎告知は、日本初公開なんですよね。
関西ではないのかな?
自分の目で見てみたいです。
こちらのミュージアムショップは、とても楽しめると、ブログのお友達に聞きました。
albireo さんも何か購入されましたか?
by (2007-04-14 20:06) 

僕も戦争は嫌いですが、兵器の機能美、特に戦闘機の機能美に惹かれる事があります。我ながら矛盾していると思いますが、ある意味人間自体が矛盾を抱えた存在だとも思います。
『レオナルド・ダ・ヴィンチと受胎告知』は、出版されたことは知っていますが、まだ買っていません。近いうちに読んでみたいと思います。
by (2007-04-14 20:51) 

gillman

ぼくも東博は好きでよく行きますが
まだ混んでいますかね
by gillman (2007-04-14 22:16) 

sera

ユリカモメの翼は完璧に撮れましたね~(^_^)v
構造がはっきり見えて、尻尾の角度や広がりも、
はっきり見えています。
davinciが描いた絵って、案外少ないですよね、、
来週ころ行く予定です。
六本木の新美術館には行かれましたか。
広々として、近代的できれいですが、自然がない、、、
by sera (2007-04-15 13:25) 

あやこ

この催し気になっていました!
やはり混雑しているのかなぁ??
by あやこ (2007-04-15 19:23) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 1

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。