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頑是ない歌 [風景]


    思へば遠く来たもんだ
    十二の冬のあの夕べ
    港の空に鳴り響いた
    汽笛の湯気は今いづこ

    雲の間に月はゐて
    それな汽笛を耳にすると
    竦然
(しょうぜん)として身をすくめ
    月はその時空にゐた

        ・
        ・
        ・

    さりとて生きてゆく限り
    結局我ン張る僕の性質
(さが)
    と思へばなんだか我ながら
    いたはしいよなものですよ

    考へてみればそれはまあ
    結局我ン張るのだとして
    昔恋しい時もあり そして
    どうにかやつてはゆくのでせう

    考へてみれば簡単だ
    畢竟
(ひっきょう)意思の問題だ
    なんとかやるより仕方もない
    やりさえすればよいのだと

    思ふけれどもそれもそれ
    十二の冬のあの夕べ
    港の空に鳴り響いた
    汽笛の湯気や今いづこ

        中原中也 「頑是(がんぜ)ない歌」
              詩集「在りし日の歌」所収

 

 

中原中也のこの詩は、高校の教科書に掲載されていることもあるようですから、ご存知の方もいらっしゃるかと思います。
もっと長い詩ですが、途中を省略しました。

僕は、教科書で読んだ記憶はありませんが、海岸で沖の方に船を見ると、不意にこの詩を、思い出すことがあります。(勿論、全文を暗唱しているわけではないので、せいぜい最初の一連だけですが・・・)
もっとも、いつもと言う訳ではなく、子供の頃好きだった、童謡の「みかんの花咲く丘」を、思い浮かべたりすることもあります。

どちらにしても、特別な思い入れがある訳でもなく、ただ何となくですが・・・。

 

この東京湾内の海辺からは、晴れた日には富士山も見えます。
でも、東京の空越しに見ることになるせいか、写真に撮ってみても大抵こんな風に、薄ぼんやとしか見えなくて、空もあんまり青くはありません。

 

少し南の方に目をやると、千葉県の遠い海岸も、ぼんやりと霞んで見えます。
多分、市原市の方のコンビナートから立ち昇る煙のせいもあるのかも知れません・・・。

普段は忘れがちですが、こんな時には東京に近いこの辺りの空が、決して本当には青く澄んではいない事を実感します。

でも、東京で生まれた僕にとっては、この空が故郷の空でもあるのです。

 

      智恵子は東京に空が無いという、
      ほんとの空が見たいという。
      私は驚いて空を見る。
      桜若葉の間に在るのは、
      切っても切れない
      むかしなじみのきれいな空だ。
      どんよりけむる地平のぼかしは
      うすもも色の朝のしめりだ。
      智恵子は遠くを見ながら言う、
      阿多多羅山の山の上に
      毎日出ている青い空が
      智恵子のほんとの空だという。
      あどけない空の話である。

        高村光太郎 「あどけない話」
            詩集「智恵子抄」所収

 

多分、誰にとっても、幼い頃から馴染んできた風景や、その上に見えた空の色が、原体験としてその人の心の中に、何時までも生き続けるのかも知れません・・・。
例え、その場所から遠く離れて暮らすとしても・・・。

 

 

 

so-net が、少し軽くなって来たようなので、少しは改善されたと思ったのですが・・・。

僕は、引用部分は文字の色を青にすることにしています。
でも、色を変えようとすると、エラーが起こって固まってしまいます・・・。
何度やっても駄目だったので、以前の記事の引用部分の青い文字の間に、コピーした詩を流し込んで色をつけ、それを再びコピーして貼り付け、何とか青い文字に変えました・・・。
早く、本格的な改善を望みたいものです・・・。

 


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コメント 19

はてみ

1枚目の写真、海がしましまなのが不思議です。
潮の流れとかがあるんでしょうか?
ぼんやりしたヨットの帆もいい効果。
4枚目の写真、光る石の転がる浜辺みたいに見えます。
たぶん波の高低が陸の傾斜に見えるからだと思いますが、
海なし県人で海をよく知らないからかもしれません。
海には波があるんですよね…(^^)
by はてみ (2006-02-11 10:41) 

はじめまして。
写真と詩がぴったりで、雰囲気満載でした。自然をはるかバックに、文明力が手前に。それを全部包み込む海。いいですね~!
中也は私も大好きです。また 遊びに来ますネ。
by (2006-02-11 11:19) 

きれいな海、しずかな海。
by (2006-02-11 14:37) 

風の又三郎

素晴らしい写真ですね、海には人の心を癒す力がありますね。
自分がちっぽけな存在なんだ、と気づかせてくれます。
高村光太郎は花巻に疎開していた時期があり、当時の山荘も保管展示されています。  賢治と共に、花巻の観光の目玉のひとつとなっています。
by 風の又三郎 (2006-02-11 15:49) 

ao

中也の詩の引用が印象的
aoの家にもほんとの空がないようです
今日は、もやって富士山が見えませんでした(・_・、)
by ao (2006-02-11 16:43) 

YAYA

写真の青の深さが詩をも深めていて、本当に素敵です。
中也も光太郎も好きでよく読んだのですが、最近は遠のいていたので、
どきっとしました。素晴らしかったです。
「智恵子抄」ほんとうに懐かしくって、本さがしてみます。
by YAYA (2006-02-11 18:04) 

shareki

若い頃、千恵子抄を読んで、鳥肌たちました。
キラキラした海が綺麗ですね^^
by shareki (2006-02-11 19:44) 

ご無沙汰してました。
1枚目のストライプの海が、とても胸を打ちました。
詩も、うまく組み合わさってますね。
by (2006-02-11 20:09) 

あやこ

海のしましま、きらきら 素敵です^^
会社からも、お天気がいいと千葉やアクアラインがみえます。
工業地帯や行きかう貨物船ってなんだか独特の雰囲気がありますよね
『智恵子抄』また 読んでみたくなりました!
by あやこ (2006-02-11 21:22) 

蒲公英

初めまして。
『みかんの花咲く丘』・・私もいつも口ずさんでいます。
小さい時に手遊びをしたので大人になった今でも、ふと出てしまう様です。
みかんの花が咲いている・・思い出の路、丘の道・・遙かに
見える青い海・・お船が遠く霞んでる・・・
その情景にピッタリのお写真、楽しませて頂きました。
これからも楽しみにお待ちしております。
by 蒲公英 (2006-02-11 21:24) 

ミナは富士山大好きなんです♪だから、どんなに少しでも、暗くても富士山がある空が懐かしい♪
by (2006-02-12 01:23) 

m-tamago

おはようございます。
冬の海、好きです。深い色をして澄んで、キラキラしている。
智恵子抄は昔初めて読んだ時、心に突き刺さりました。智恵子にとっての本当の空。人は皆原風景というのを持っているものですね。私にとっての原風景のこともまた書きたいと思っています。
by m-tamago (2006-02-12 11:29) 

Baldhead1010

ふしぎな模様の海ですね。
>思へば遠く来たもんだ・・・海援隊の歌かと思いました^^
by Baldhead1010 (2006-02-12 16:20) 

じゅん

僕の家は埼玉なので海がありません、
とにかく大きな海は文明の東京でも特別なことです。
東京湾を抜ければなおさらですね。
by じゅん (2006-02-12 16:42) 

ナナ

思へば遠く来たもんだ・・
大好きです。中原中也。
私もこの詩を聞くと、このような波止場から見る海の光景を連想します。
しかも決まって、そのときの自分は、トレンチコートを着て、海風の中、襟を立てて、遠くを臨んでいるのです。
そして。ボォ~っという汽笛が聞こえてきて。
なんだか変な郷愁を感じるのです。
そして、もう戻れないのだと、実感して、前に進む決心をする・・・

・・みたいな感じ?(笑)

この人の詩は、読むだけで情景が浮かんできて止まりません。
硬すぎず、明るすぎず、優しすぎず、美しすぎず。

それが、私には、とってもしっくりくるのです。
by ナナ (2006-02-13 01:02) 

puripuri

私も遠くへ来てしまいました。流れてこの地へ、、、、
あちこちと転勤して、その地の事が思い浮かんで来ます。
でも、私の故郷(住んでいた場所)はすっかりと変わってしまいました。
by puripuri (2006-02-13 10:19) 

Gotton Factory

頑是ない歌はナナさんが書いてるとおりの詩ですよね。
ナナさんの文章を見てばくぜんと感じてたことはこういうことを思ってたんだと改めて気付かされました。
哀愁  というものを感じます。
by Gotton Factory (2006-02-13 16:21) 

中原中也の詩は、僕も大好きです。
写真のイメージと相まって、とても素敵です。
青くて穏やかな海とても綺麗ですね。暖かそうですし。(苦笑)
by (2006-02-14 01:34) 

penpen

全体に青っぽい今日のお写真、詩とその文字の青ともしっくりきますね。なんか懐かしいような気分になってきました。
by penpen (2006-02-15 16:59) 

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